71. 最適刺激の重要性について:感覚失語1例の全体構造法訓練を通して

[はじめに] 全体構造(以下, JIST)法では, 最適な刺激が強調されている. 今回, その意味の重要性について, 1症例から教えられたので報告する. [症例] 52歳, 右利き, 男性. 1999年3月, 突然の失語症にて発症. MRIにて左側頭葉の皮質性梗塞と診断された. 麻痺はなく, 保存的治療で1ヵ月入院. 発症よりST訓練開始されたが, 理解が悪く訓練の意味すらわからず, しかも書字中心の訓練であったため適応できず, JIST法での訓練を希望し当院を来院された. [初期評価] SLTAでは, 聴覚的理解検査は短文レベルより低下し, テスト放棄さえみられた. 発話は流暢ながら錯語,...

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Published in聴能言語学研究 Vol. 18; no. 3; p. 223
Main Authors 藤井加代子, 道関京子
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本聴能言語学会 2001
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ISSN0912-8204

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Summary:[はじめに] 全体構造(以下, JIST)法では, 最適な刺激が強調されている. 今回, その意味の重要性について, 1症例から教えられたので報告する. [症例] 52歳, 右利き, 男性. 1999年3月, 突然の失語症にて発症. MRIにて左側頭葉の皮質性梗塞と診断された. 麻痺はなく, 保存的治療で1ヵ月入院. 発症よりST訓練開始されたが, 理解が悪く訓練の意味すらわからず, しかも書字中心の訓練であったため適応できず, JIST法での訓練を希望し当院を来院された. [初期評価] SLTAでは, 聴覚的理解検査は短文レベルより低下し, テスト放棄さえみられた. 発話は流暢ながら錯語, 喚語困難等が認められ, 呼称50%, 同じく読解, 書字も困難. よって感覚失語中度と診断した. [経過と結果] 不連続な周波数を通した「となえうた」を段階的にとなえる練習を行い, 訓練4ヵ月後のSLTAは各モダリティーに改善が続いたが, 問題の聴覚的理解力の口頭命令得点は, 低下したままだった. このため把持力や意味理解を訓練することを必要と考え, 「となえうた」の長さや内容を検討しながら取り組んできたが, 理解力は改善していかなかった. なぜなら, JIST法の手段を用いてはいたが, テスト結果からの不足分を補っていただけで, 最適性の配慮が欠けていたからであった. その後, 感覚失語に必要と思われる音の構造化段階に合わせながら1音1音に集中した「となえうた」(道関, 1997)練習に切り替えた結果, 急激に口頭命令検査が改善を示し, ほぼ日常生活に支障のない80%になり, 1年後現職復帰できた. [考察] JIST法の手段は, 単に表れた言語症状ではなく, 失語症の神経心理学的な知覚構造化の段階に合わせていくことで効果を発揮できる. まさにJIST法とは, 最適な刺激で訓練することによって, 自然な言語の構造化を促進させる方法である. 今後もその探求を続けていかなくてはならないということを再確信させられた.
ISSN:0912-8204