A-6:失語症

本群では失語症児, 者の症候学についての基礎的, 臨床的研究が5題報告された. 演題A-6-1(宗田ら)は, 失語症者の動詞理解障害についてSALA失語症検査の「類似性判断」課題を用いて心像性効果との関係を検討した研究である. 石坂(福岡教育大学)から, 「単語の頻度はどのように統制されているか」質問され, それに対して「親密度の統制はなされているが頻度は統制されていない」と応答された. 座長より, 「動詞は文脈によりイメージが多様であるので刺激を文の形で提示したほうが類似性の判断がしやすかったのではないか」と質問し, それに対して「実際に動詞のほうが正答率が低下した印象があったが, 文の形で...

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Published inコミュニケーション障害学 Vol. 23; no. 3; pp. 247 - 248
Main Author 吉野眞理子
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本コミュニケーション障害学会 2006
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ISSN1347-8451

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Summary:本群では失語症児, 者の症候学についての基礎的, 臨床的研究が5題報告された. 演題A-6-1(宗田ら)は, 失語症者の動詞理解障害についてSALA失語症検査の「類似性判断」課題を用いて心像性効果との関係を検討した研究である. 石坂(福岡教育大学)から, 「単語の頻度はどのように統制されているか」質問され, それに対して「親密度の統制はなされているが頻度は統制されていない」と応答された. 座長より, 「動詞は文脈によりイメージが多様であるので刺激を文の形で提示したほうが類似性の判断がしやすかったのではないか」と質問し, それに対して「実際に動詞のほうが正答率が低下した印象があったが, 文の形で提示すると動詞以外の語の理解も絡み単語属性の統制の問題も生じると思われた」と応答された. 演題A-6-2(市川ら)は, 後天性小児失語症児1例の漢字音読の問題について健常児の成績と比較検討した研究である. 長野(新さっぽろ脳神経外科病院)より, 健常児の漢字読みにはその子の癖のような一定の傾向があるかが質問され, それに対して「健常児群の誤り傾向は漢字により異なり, 非一貫, 非典型語において誤りを示した児童のほとんどがLARC errorを示し, また低頻度語においては意味性錯読をする児童が多くみられるという傾向があった」と応答された. 広実(多摩リハビリテーション学院)より, まとめに挙げられた“音読により語彙数を増やす”が失語を認める本児になぜ適しているのかが質問され, それに対して「本児は漢字音読に対して苦手意識があったので, 挿絵付きの本やキャラクター本などを読むことを通じて漢字音読に対する苦手意識をなくしていくことが大切と思われた. その上で音読を通して語彙を増やしていくことが望ましいと考えられた」と応答された. 最後に座長から, 後天性小児失語にもさまざまなタイプがあると思われるので, 本児の症状の特徴が, 成人失語ないし失読のどのタイプと, あるいはdyslexiaや遅れの子どもの症状と, どんな類似あるいは相違を示すかという視点からの分析も必要と思われると指摘した. 演題A-6-3(吉松ら)は, 失語症者の示す言語性保続について, SALA失語症検査の呼称課題での反応から保続症状を分析し, 他の下位検査課題成績との関連を検討した研究である. 三宅(神戸中央市民病院)より, どのようなタイプの保続がみられたかが質問され, それに対して「兼本(1991)に従い, 保続の出るタイミングにより直後型, 遅延型に分け, さらにその特徴を持続型, 反応型に分けた」と応答された. さらに無意味語の復唱ができないことと保続症状との関連をどう考えるかが質問され, それに対して「音韻入出力変換の不具合との関連, 聴覚的音韻分析の関与の可能性が考えられる」と応答された. 座長からは, 無意味語の復唱成績低下と関連したということは, ここに示された言語処理モデルの外に保続と関連する要因があったとも考えられるのではないかと示唆された. 演題A-6-4(古川ら)は, 失語症者の伝達手段としての文字および絵の効果について, 2本のビデオを見せた後その内容をSTに伝える場面で, 文字, 絵を使用する場合と使用しない場合とで伝達内容, 効率に差があるかどうか検討した研究である. 渋谷(新潟医療福祉大学)より, (1)用いたビデオは両場面で交互に使用したのかどうか, (2)重症度により文字, 絵の使用頻度に差がなかったか, 質問された. これに対して, (1)交互に使用した, (2)差があったが, 量にかかわらず使用頻度による伝達量の差はなかったと応答された. 座長から, 今回の研究結果は臨床場面での印象と異なると感じたかどうか質問され, これに対して, 結果的には少し意外であったと応答された. 演題A-6-5(川名(大城)ら)は, 失語症者の比喩の理解について, 言語および非言語課題, また知覚的比喩と概念的比喩を用いて, 右半球損傷者, 健常者と比較して検討した研究である. 座長から, 失語群を流暢型と非流暢型に分けて検討しているが両群で何か差はなかったかが質問され, 有意差がなかったこと, 今回は右半球損傷者との比較を主眼としたので今後の課題にしたいと応答された. 本群は, いずれもよく計画を練り上げて実施され, 丁寧に分析された研究であり, 論文として公刊されることが期待されるものである. 学会発表だけで終わらせず, 論文としてまとめることで研究をぜひとも完成させていただきたい.
ISSN:1347-8451