2)中等度低体温の心室筋細胞におけるNa+/H+交換系活性とそのcariporideによる抑制に及ぼす影響

最近開発されたNa+/H+交換系(NHE)阻害薬は, 種々の虚血再灌流モデルにおいて, 心筋保護効果を有することが認められている. この際, 冠動脈疾患患者における冠動脈の閉塞および再灌流の際に起る状況を再現する為に, 大多数のNHE阻害薬を用いた実験的研究では心臓は生理学的条件下(37℃)にて虚血再灌流に曝されている. 一方, 心臓外科手術や心臓移植に用いられる低温条件下での虚血再灌流モデルにおいてもNHE阻害薬の心筋保護効果を認めるとする報告もあるが, 低温そのもののNHE活性に対する影響や, NHE阻害薬の薬理学的特性に及ぼす影響についてはまだ十分に検討されていない. 以上の様にcari...

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Published inJournal of Nippon Medical School Vol. 69; no. 6; pp. 620 - 621
Main Author 星野公彦
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本医科大学医学会 2002
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ISSN1345-4676

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Summary:最近開発されたNa+/H+交換系(NHE)阻害薬は, 種々の虚血再灌流モデルにおいて, 心筋保護効果を有することが認められている. この際, 冠動脈疾患患者における冠動脈の閉塞および再灌流の際に起る状況を再現する為に, 大多数のNHE阻害薬を用いた実験的研究では心臓は生理学的条件下(37℃)にて虚血再灌流に曝されている. 一方, 心臓外科手術や心臓移植に用いられる低温条件下での虚血再灌流モデルにおいてもNHE阻害薬の心筋保護効果を認めるとする報告もあるが, 低温そのもののNHE活性に対する影響や, NHE阻害薬の薬理学的特性に及ぼす影響についてはまだ十分に検討されていない. 以上の様にcariporideに代表される筋細胞膜Na+/H+交換系の特異的阻害薬は, 心臓手術の際の心筋保護療法としての有用性について現在検討が進められている. 今回ラット単離心室筋細胞を用いて, 心臓手術中に心筋が曝され得る中等度の低体温(25℃)の(1)筋細胞膜Na+/H+交換系活性および(2)cariporideのNa+/H+交換系阻害能に対する影響を検討した. 単一細胞(各群n=8~11)を用い, 炭酸水素イオンの存在しない条件下, 細胞内アシドーシスよりの回復過程におけるNa+/H+交換系活性の指標として筋細胞膜における酸排出率(JH)を蛍光色素法を用いて測定した. はじめに心筋細胞は2つの連続する細胞内アシドーシスパルスに曝された. これらの2連続アシドーシスパルスは, 適温コントロール群においては37℃の条件下で施行された. 一方, 中等度低体温群においては第2パルスは25℃の条件下で施行された. 第1パルス後に得られたJH値は両群において同等であり, 両者はNHE活性について比較しうる細胞集団であることが示された. しかし, 第2パルス後に得られた中等度低体温群におけるJH値は, 細胞内pH値6. 80~7. 10の範囲において適温コントロール群の同値の約50%であった. 37℃, 25℃の条件下で単一の細胞内アシドーシスパルスを施行した細胞においても同様の結果が得られた. すなわち中等度低体温群のJH値は細胞内pH値680~7. 10の範囲において, 適温コントロール群の同値の約60%であった. 単一の細胞内アシドーシスパルスよりの回復過程に存在するcariporide(0. 01, 0. 03, 0. 1, 0. 3, 1. 0, 3. 0μM)は濃度依存性にJH値を低下させ, 37℃, 25℃の条件下におけるIC50値はそれぞれ150nM, 130nMであった. 以上より中等度低体温は(1)有意だが部分的な筋細胞膜Na+/H+交換系活性の抑制をもたらし, (2)NHE阻害薬cariporideのNa+/H+交換系阻害能に対して有意な影響を及ぼさない, と結論する. 従って, 低体温の環境においてもNHE阻害薬の心筋保護効果が期待できるものと考えられる.
ISSN:1345-4676