虚血性神経細胞死におけるCalcineurin/Immunophilinの役割と新規脳蘇生法への応用

中枢神経系が虚血に対して特異的に易傷害性が高いのは, 発生学的に神経系が特異な分化を遂げて獲得した情報伝達系によるものと考えられている. これまでに, 神経細胞死を引き起こす数多くのメカニズムが解析され, それに対する薬物の効果が試されたが, 明確な結論に至らないまま30年近くが過ぎた. 虚血性細胞死を阻止するためには, 細胞死を引き起こす鍵となるメカニズムの解明が必要となる. 虚血再灌流後には, 非生理学的な細胞内カルシウム[Ca2+]iの上昇により, Ca2+過剰負荷, および酸化的ストレスを講因とするMPT(ミトコンドリア内膜透過性亢進)が認められる. 最近, このMPTによるミトコンド...

Full description

Saved in:
Bibliographic Details
Published in蘇生 Vol. 19; no. 3; p. 220
Main Authors 内野博之, Bo. k. Siesjo, 芝崎太, 一色淳
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本蘇生学会 2000
Online AccessGet full text
ISSN0288-4348

Cover

More Information
Summary:中枢神経系が虚血に対して特異的に易傷害性が高いのは, 発生学的に神経系が特異な分化を遂げて獲得した情報伝達系によるものと考えられている. これまでに, 神経細胞死を引き起こす数多くのメカニズムが解析され, それに対する薬物の効果が試されたが, 明確な結論に至らないまま30年近くが過ぎた. 虚血性細胞死を阻止するためには, 細胞死を引き起こす鍵となるメカニズムの解明が必要となる. 虚血再灌流後には, 非生理学的な細胞内カルシウム[Ca2+]iの上昇により, Ca2+過剰負荷, および酸化的ストレスを講因とするMPT(ミトコンドリア内膜透過性亢進)が認められる. 最近, このMPTによるミトコンドリア機能不全が, 細胞死の中心的な役割を演じることが報告され, 注目を集めている(Zoratti, 1995, Zamzami 1997). さらに, このMPT poreを構成し, CsAの標的分子としてミトコンドリアマトリックスに特異的に発現するサイクロフィリンDが同定された. これまでにFK506やCsAなどの免疫抑制剤の虚血性神経細胞死に対する著明な抑制効果が報告されたが(Sharkey等1994, Uchino等1995, 1998), その機序として, 両薬物の共通の標的分子であるCa2+依存性脱リン酸化酵素カルシニューリン(calcineurin)が, 細胞死に深く関与する事実が示唆された. また, 両薬剤はイムノフィリン(immunophilin)と結合し, そのisomerase活性を阻害することで細胞死を制御するが, 特にCsAは, サイクロフィリンDを阻害してMPT poreの開孔を抑制し, ミトコンドリア機能を維持することが判明した. このようにカルシニューリンおよびイムノフィリンを介する情報伝達系は, 虚血性神経細胞死の制御に重要な役割を演じていることが考えられる. そこで, 本発表では多機能制御能を持つ脳内のCalcineurin/Immunophilin情報伝達系の役割と, 虚血性神経細胞死との連関に焦点を当て, 我々の最近の知見をもとに新規脳蘇生法への応用の可能性について述べる.
ISSN:0288-4348