医療情報とプライバシー

医療現場の「情報化」が進むにともなって, 医療機関で獲得された医療情報をこれまで以上に有効活用しようという動きが盛んになってきている. カルテの電子化, ネットワーク化による患者情報の共有や, 遠隔地医療におけるEBMの実践, さらには遺伝子情報のオーダーメイド医療への応用など, その可能性は無限に開かれているといってもよい. しかしその一方で, 医療の世界が, 「情報化社会」の陰の部分としてあげられることの多い, いわゆる「プライバシー」問題と無縁ではありえないことも確かである*2. プライバシーは, 現代では誰もが知っているにもかかわらず, それに対する明晰判明な定義づけがいまだに確定して...

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Published in家族性腫瘍 Vol. 3; no. 1; pp. 22 - 25
Main Author 水谷雅彦
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 家族性腫瘍研究会 2003
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ISSN1346-1052

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Summary:医療現場の「情報化」が進むにともなって, 医療機関で獲得された医療情報をこれまで以上に有効活用しようという動きが盛んになってきている. カルテの電子化, ネットワーク化による患者情報の共有や, 遠隔地医療におけるEBMの実践, さらには遺伝子情報のオーダーメイド医療への応用など, その可能性は無限に開かれているといってもよい. しかしその一方で, 医療の世界が, 「情報化社会」の陰の部分としてあげられることの多い, いわゆる「プライバシー」問題と無縁ではありえないことも確かである*2. プライバシーは, 現代では誰もが知っているにもかかわらず, それに対する明晰判明な定義づけがいまだに確定してはいない奇妙な概念である. それは, この概念が示す事柄が, 時間, 空間の相違において大きな差異を示すということのみならず, 個人レベルにおいても異なった相貌をみせるのが常であることに起因しているともいえる. さらに, プライバシーを権利という観点からみるならば, それに対する侵害が, 他の, たとえば名誉殿損などの権利侵害と比較してきわめて曖昧なものでありうるということをあげることもできよう. たとえば, 自分が座っている公園のベンチの横に他のベンチがすべて空いているにもかかわらず他人が座ってきたときの「嫌だなあ」という感情をプライバシーと関係させることできるとするならば, それがいかなる権利侵害であるのかを明確に記述することは相当困難である*3.
ISSN:1346-1052