502 片麻痺患者における立位姿勢の再構築過程に関する検討

片麻痺患者の姿勢, 運動制御に関する報告は多数みられるが, その再構築過程を検討した研究は少ない. 本研究の目的は, 立位経験のない急性期の片麻痺患者が, 立位姿勢を機能的に構築していく過程を明らかにすることである. 片麻痺発症後, 立位経験のない初回発作の皮質下病変による不全片麻痺患者6名(男性4名, 女性2名, 平均年齢57歳〔範囲:48-61歳〕)を対象とした. 片麻痺発症後の経過期間は16日(範囲:6-24日)であり, 麻痺側は右が4名, 左が2名であった. 下肢の運動麻痺は軽度から中等度で, 3名に軽度から中等度の感覚障害を認めた. 患者には本実験の主旨を説明して, 研究へ参加するこ...

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Published in理学療法学 Vol. 31; no. suppl-2.1; p. 251
Main Authors 今井覚志, 長谷公隆, 鈴木悦子, 千野直一, 今中國泰
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本理学療法士協会 2004
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ISSN0289-3770

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Summary:片麻痺患者の姿勢, 運動制御に関する報告は多数みられるが, その再構築過程を検討した研究は少ない. 本研究の目的は, 立位経験のない急性期の片麻痺患者が, 立位姿勢を機能的に構築していく過程を明らかにすることである. 片麻痺発症後, 立位経験のない初回発作の皮質下病変による不全片麻痺患者6名(男性4名, 女性2名, 平均年齢57歳〔範囲:48-61歳〕)を対象とした. 片麻痺発症後の経過期間は16日(範囲:6-24日)であり, 麻痺側は右が4名, 左が2名であった. 下肢の運動麻痺は軽度から中等度で, 3名に軽度から中等度の感覚障害を認めた. 患者には本実験の主旨を説明して, 研究へ参加することに了承を得た. 2枚の床反力計(アニマ社MG-1090)上に左右の足を別々に載せ, 足幅を10cm, 前胸部で腕を組んだ状態にて, 2m先に設置した目線の高さの指標を注視しながら立位姿勢を保持する課題を患者に指示した. 起立動作は介助にて行い, 介助なしで15秒以上(最大で60秒)立位を保持させた. この立位保持課題を数分間の十分な休憩を入れて5回行った. その際, 足圧中心, 重心動揺の国際指標であるmean velocity(以下, MV), root mean square distance(以下, RMSD), および各試行の動揺中心(足圧中心の平均)を算出した. また, あわせて大腿および下腿筋群の筋活動をデータ記録システム(PowerLab, ADlnstruments社)に取りこみ, RMS処理した得られたデータから, 初回から5回目の試行までの経時的変化とともに, 症例ごとの姿勢制御戦略について検討した. MV, RMSDは, 5回目の試行までに全症例で減少し, 初回と比べてそれぞれ72±23%, 80±31%となった. 5例において初回立位時に非麻痺側の前脛骨筋に強い活動が認められ, 5回目の試行までに有意に減少した. また, 立位経験(立位回数)を重ねるとともに麻痺側ヒラメ筋の筋活動が有意に増大した. 初回の立位で60秒間の保持が可能であった症例(3名, 以下;軽症例)の動揺中心は立位経験とともに前方へ変位したのに対し, 15秒で介助を要した症例(2名, 以下:重症例)は後方に変位した. 軽症例では前脛骨筋またはヒラメ筋のRMS値と動揺中心の変位に対応関係が認められたが, 重症例では明らかな対応は認められなかった. 他の1名は初回に30秒間の立位保持が可能であったが, 動揺中心の経時的変位に一定の傾向を見出すことはできなかった. 立位姿勢を保持するための即時的な適応は非麻痺側前脛骨筋の強い筋活動で達成され, その活動量を調節することで立位姿勢が再構築されたと考える. その際, 軽症例では足関節を中心とした姿勢制御によって立位が再構築されるのに対して, 重症例ではそれ以外の戦略の動員が必要となることが示唆された.
ISSN:0289-3770