アルツハイマー型痴呆症者の理学療法アプローチ
【目的】アルツハイマー型痴呆症の身体機能は, 発症初期から中期までは比較的保持されている. しかし, 中期以降になると失行などの高次脳機能障害の影響のため日常生活活動が困難になり, 坐位や立位で傾斜位を呈する特有の異常姿勢が発現する. 室伏はこの異常姿勢をピサの斜塔に似ていることからピサ徴候と呼び, 錐体外路症状であるとしている. このピサ徴候が見られた2症例へ理学療法実施し改善が得られたので報告する. 【症例1】症例1は59歳の女性で, アルツハイマー型痴呆症発症から6年経過していた. 視空間失認と体幹左傾斜が認められたため, 歩行中の転倒予防を目的に理学療法が開始された. 身体機能面は体幹...
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          | Published in | 理学療法学 Vol. 27; no. suppl-2; p. 386 | 
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| Main Authors | , , , | 
| Format | Journal Article | 
| Language | Japanese | 
| Published | 
            日本理学療法士協会
    
        2000
     | 
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| ISSN | 0289-3770 | 
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| Summary: | 【目的】アルツハイマー型痴呆症の身体機能は, 発症初期から中期までは比較的保持されている. しかし, 中期以降になると失行などの高次脳機能障害の影響のため日常生活活動が困難になり, 坐位や立位で傾斜位を呈する特有の異常姿勢が発現する. 室伏はこの異常姿勢をピサの斜塔に似ていることからピサ徴候と呼び, 錐体外路症状であるとしている. このピサ徴候が見られた2症例へ理学療法実施し改善が得られたので報告する. 【症例1】症例1は59歳の女性で, アルツハイマー型痴呆症発症から6年経過していた. 視空間失認と体幹左傾斜が認められたため, 歩行中の転倒予防を目的に理学療法が開始された. 身体機能面は体幹左傾斜により立ち上がりは軽介助, 歩行は監視レベルであった. 体幹左側の筋緊張が亢進しており, 精神機能面では改訂長谷川式痴呆スケールが0点で, 精神運動興奮状態が強く徘徊がみられ指示が入らない状態であった. 理学療法は訓練室を監視での歩行訓練から始め, 簡単な全身運動を行わせるように誘導した. 運動することに慣れたころから, 腹臥位で体幹筋のリラクゼーションを行い筋緊張の抑制を行った. 上肢・体幹の対称的な動作を坐位や立位で行い体幹左傾斜も改善した. 現在はさらに階段昇降を含めた応用歩行も行い歩行能力維持を行っている. 【症例2】症例2は75歳の女性で, アルツハイマー型痴呆症発症から8年経過していた. 体幹左傾斜が出現し在宅で転倒したことから, 立位・歩行の安定性確保を目的に理学療法が開始された. 身体機能面は座位保持, 立位は可能であったが, 床からの立ち上がり動作は体幹左傾斜のためバランスが悪く, 介助歩行レベルであった. 精神機能面では改訂長谷川式痴呆スケールが0点で, 発動性低下しており, 自発語が少なく理解力が重度に低下しているため意志疎通困難な状態だった. 理学療法は体幹左傾斜改善のために上肢・体幹を中心とした対称的な動作を坐位や立位で反復させることから始めた. 対称的な動作反復の回数も増え体幹左側の筋群の伸張をあわせて実施し, 体幹左傾斜が改善した. 現在は歩行が安定し応用歩行として屋外歩行を中心にアプローチしている. 【結果および考察】ピサ徴候を呈した本症例2例とも体幹左側の筋緊張が亢進していた. 理学療法は体幹左側の筋緊張を緩和し, 対称的な動作を獲得させることを中心と考えた. しかし, 痴呆症者は口頭指示の受け入れが困難なため, 運動方向を正確に引き出すことに難渋する. そこで, この2症例の精神症状に合わせた環境設定を行い, 精神的な安定を図り, 正しい運動を引き出すようにアプローチした. 時間をかけた環境設定後に簡単な運動を行わせ, その後少しずつ目的とする動作を誘導し, 2症例とも最終的には引き出したい運動を行わせることができ, ピサ徴候が改善した. 身体障害を持つが重度の痴呆症があるために, 理学療法の処方が出されないケースが多々ある. しかし, 環境設定した精神安定などを図ることによって, 十分アプローチが可能であることが示唆された. | 
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| ISSN: | 0289-3770 |