日本口腔衛生学会認定医制度の必要性
先頃, 21世紀の国民医療保険制度への抜本的な改革案が, 厚生省と与党医療保険制度改革協議会より, それぞれまとめられ発表された. その是非はともかく, 学会との関連で気になったところを与党協議会案から抜粋する. 「地域住民が身近な地域でかかりつけ医機能を担う医師, 歯科医師から適切な医療サービスを受けるために, その専門分野を明示できるように広告規制を緩和する. このため, 専門医については, 学会において認定基準の統一化, 明確化を図る」と記載されている. 以前からいわれていたことではあるが, いよいよ学会の認定医制度が社会的に前面にでてくることになりそうだ. しかし, ここで述べられてい...
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          | Published in | 口腔衛生学会雑誌 Vol. 47; no. 5; p. 651 | 
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| Main Author | |
| Format | Journal Article | 
| Language | Japanese | 
| Published | 
            日本口腔衛生学会
    
        30.10.1997
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| ISSN | 0023-2831 | 
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| Summary: | 先頃, 21世紀の国民医療保険制度への抜本的な改革案が, 厚生省と与党医療保険制度改革協議会より, それぞれまとめられ発表された. その是非はともかく, 学会との関連で気になったところを与党協議会案から抜粋する. 「地域住民が身近な地域でかかりつけ医機能を担う医師, 歯科医師から適切な医療サービスを受けるために, その専門分野を明示できるように広告規制を緩和する. このため, 専門医については, 学会において認定基準の統一化, 明確化を図る」と記載されている. 以前からいわれていたことではあるが, いよいよ学会の認定医制度が社会的に前面にでてくることになりそうだ. しかし, ここで述べられているかかりつけ機能を担う医師, 歯科医師の役割とは, 本来, 地域に密着し, 家族単位で, 疾病を予防し, 健康の増進から治療まで含めた包括的な医療を行うことにある. 特に, かかりつけ歯科医は, う蝕や歯周病といった歯科疾患の特性から定期的口腔検診, 慢性の感染性因子や生活習慣因子といったリスクファクターに対するリスクアセスメントを行い, そして, そのリスクを取り除くための保健指導や予防処置等を通じた継続的な口腔保健管理を担わなければならない. 例え, 対象となる患者が半健康人や軽度の疾病をもつ者であっても, 正確な健康度の評価や有効な予防医学的コンサルテーションには高度な専門的知識と技術を必要とする場合が多い. しかしながら, 現在のところ, このようなかかりつけ歯科医として最も求められる予防歯科領域における認定医制度は有しない. また, 高齢者医療保険制度に対する与党案については, 「高齢者を対象として疾病の予防, 健康増進から治療までを含めた, 独立した保険制度を創設する」とある. 従来は, 「疾病保険」に限られていた医療給付が, 予防や保健の領域まで枠が拡げられようとしている. 今後は, 高齢者に限らず, 医療保険のなかで口腔保健管理が重要な位置を占めるようになるのではないだろうか. このような社会的背景も予防歯科を専門とする歯科医を必要としている. さらに, 別の項目に「〔総合的な保健医療システムの構築〕母子, 老人, 学校, 産業, 地域などの各種保健事業を, 予防医学を重視し, 生涯を通じての総合的なシステムに再構築する」と記されている. この点についても, 歯科領域では, 行政面で今後さらに充実はされるであろうが, マンパワーとしては開業歯科医が中心となって進めることにはあまり大きな変化はないと思う. 現在, 地域保健法が施行され, 地域での口腔保健事業が活発に行われようとしている. しかし, 少し詳しく内情をみると, 口腔保健事業に対する専門的知識や技術をもつ開業歯科医がきわめて少ないという声をよく聞く. 例えば, 地域で健康診断を行うにしても, 診断基準の標準化(キャリブレーション)を行えるリーダー的歯科医がいないため, 地域の正確な口腔保健の実態が把握できない場合も多い. すなわち, このような面からも公衆保健活動に専門性をもつかかりつけ歯科医が必要とされている. 21世紀に向っての社会の大変革期のなかで, 本学会認定医制度の必要性は多くの学会員の方々が感じておられることと思う. また, 宮武理事長はじめ常任理事会でもこの問題に前向きに対応しようとしている. 認定医制度を実際につくるとなると乗り越えなければならないたくさんのハードルがあると思われるが, 本学会の目的である「国民の健康と福祉に寄与する」ために, 歯科疾患の予防と口腔保健を専門とする歯科医を世に送り出すことは, 本学会の重要な使命だと思う. | 
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| ISSN: | 0023-2831 |