II. 緩徐解離型Na+チャネル遮断薬の臨床的特徴と適応 1. プロパフェノン

1. 薬剤のプロフィール 塩酸プロパフェノン(以下プロパフェノン)は1969年ドイツで開発された化合物で, Naチャネル遮断を主作用とし, 活動電位第0相の立ち上がり速度(V max)を抑制することによって各種不整脈に対して強力な抗不整脈作用を発揮する薬剤である. 動物実験における活動電位持続時間に対する作用は, 心筋組織の種類や実験条件によって異なる. たとえば, 低濃度では明らかではないが, 高濃度ではイヌ心室筋の活動電位を延長させる一方, プルキンエ線維では低濃度でやや短縮, 高濃度ではほとんど不変である. このような点から, Vaughan-Williams分類ではIa群に分類されるこ...

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Published in心電図 Vol. 22; no. 6; p. 677
Main Author 加藤貴雄
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本心電学会 25.11.2002
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ISSN0285-1660

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Summary:1. 薬剤のプロフィール 塩酸プロパフェノン(以下プロパフェノン)は1969年ドイツで開発された化合物で, Naチャネル遮断を主作用とし, 活動電位第0相の立ち上がり速度(V max)を抑制することによって各種不整脈に対して強力な抗不整脈作用を発揮する薬剤である. 動物実験における活動電位持続時間に対する作用は, 心筋組織の種類や実験条件によって異なる. たとえば, 低濃度では明らかではないが, 高濃度ではイヌ心室筋の活動電位を延長させる一方, プルキンエ線維では低濃度でやや短縮, 高濃度ではほとんど不変である. このような点から, Vaughan-Williams分類ではIa群に分類されることもある. またNaチャネルとの結合解離速度が中等度である点, チャネルに対する親和性は活性化状態, 不活性化状態ともにある点など, 他のIc群薬と多少薬理学的性質を異にする. またβ遮断薬プロプラノロールから誘導されたことからも推測できるように, 数多いI群薬の中で唯一, 強力なβ遮断作用(β1選択性)を持っているのが大きな特徴である. またベラパミルの1/100程度の弱いCa拮抗作用も有する. 他のチャネルや受容体に対する作用は, 臨床用量では明らかではないようである. 2. 適応 ドイツ, オーストリアを中心にして, ヨーロッパでは広く第一選択の抗不整脈薬として用いられている. 我が国では1989年に経口薬のみが製造承認・市販され, 広く『頻脈性不整脈』に対して適応があるとされているが, この際他の抗不整脈薬が無効な場合との但し書きが付いている. 実際の臨床では, 上室性期外収縮, 発作性心房細動・粗動, 上室性頻拍などの上室性不整脈ならびに心室期外収縮, 心室頻拍などの心室性不整脈に対して用いられる. 3. 副作用・注意点 V max抑制に伴う強力な伝導抑制作用により抗不整脈作用を発揮する薬剤であるので, もともと伝導障害を有する例ではその悪化を招来する危険性があるので"禁忌"と考えるべきである. また特に高齢者など潜在性に伝導機能の低下している例においても, 何らかの要因で血中濃度が過剰に上昇すればブロックを来すことがあるので十分な注意が必要である. またNaチャネル抑制とβ遮断作用に関連する陰性変力作用が小さくないので, 心不全の悪化・誘発などにも留意する必要がある. ほとんどが肝臓で代謝され胆汁に排泄される薬剤であるので, 肝機能障害例での血中濃度上昇に注意が必要である. またCASTで直接指摘されたわけではないが, 他のI群薬とともにその成績を受け止めて, 心筋梗塞例をはじめとする重症基礎疾患例や心機能低下例での使用は避けるべきである. 4. 他のIc群薬と比較したメリット・デメリット 他のIc群薬フレカイニド, ピルジカイニドと比較した場合, 特に本剤が有意のβ遮断作用を有することが大きなメリットといってよい. すなわち, 交感神経緊張に伴って出現する不整脈(たとえば日中を中心とする上室性. 心室性期外収縮, 活動時に発生する発作性心房細動など)に対する有効性がより期待される. また左脚ブロック右軸偏位型QRSを示すカテコラミン感受性特発性心室頻拍に対して, β遮断薬とともにしばしば再発予防を目的として第1選択で使用され, 有効性を示すことが知られている. また他の2剤はいずれも腎排泄型であるため, 高齢者を含む腎機能低下例に用いることができないが, 本剤は肝代謝型であるので, 高齢者や腎機能低下例においてもある程度安心して投与することができる. デメリットとしては, 陰性変力作用や伝導抑制作用があげられるが, 他の2剤に比して特に強いというわけではない.
ISSN:0285-1660