全反射レーザー顕微鏡による細胞内1分子計測
我々は, 細胞内分子の1分子機能計測法の開発と, それを応用した分子分子システムの解析を行っている. 蛋白質をはじめとする生体分子の機能と構造変化の相関を計測してその作動機構を明らかにすること, 細胞内での分子の反応動態を検出し細胞機能の発現機構を探ること, が我々の研究テーマである. 本講演では, 細胞内情報伝達情報処理分子の反応ネットワークを細胞内1分子計測により解析した結果を紹介する. 細胞内の分子は反応ネットワークの一員として機能している. 各ネットワークの構成要素と基本構造は明らかになってきており, その各反応素過程における分子の動的挙動と反応速度論の解析が現在の課題である. そのた...
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| Published in | 日本レーザー医学会誌 Vol. 24; no. 3; p. 238 |
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| Main Author | |
| Format | Journal Article |
| Language | Japanese |
| Published |
日本レーザー医学会
28.09.2003
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| Online Access | Get full text |
| ISSN | 0288-6200 |
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| Summary: | 我々は, 細胞内分子の1分子機能計測法の開発と, それを応用した分子分子システムの解析を行っている. 蛋白質をはじめとする生体分子の機能と構造変化の相関を計測してその作動機構を明らかにすること, 細胞内での分子の反応動態を検出し細胞機能の発現機構を探ること, が我々の研究テーマである. 本講演では, 細胞内情報伝達情報処理分子の反応ネットワークを細胞内1分子計測により解析した結果を紹介する. 細胞内の分子は反応ネットワークの一員として機能している. 各ネットワークの構成要素と基本構造は明らかになってきており, その各反応素過程における分子の動的挙動と反応速度論の解析が現在の課題である. そのための方法のひとっが細胞内での1分子計測である. 我々は主として上皮成長因子, 神経成長因子の細胞内情報伝達系を取り扱っている. 上皮成長因子(EGF)は細胞膜の受容体に働きかけ, 細胞増殖を促す. 受容体はEGFのない条件下でも活性型と不活性型の平衡状態にあるが, EGFの結合は受容体の2量体化を通じて受容体の細胞質側にあるチロシンリン酸化酵素ドメインによる会合相手のリン酸化反応を引き起こす. 我々は, 受容体の会合体形成は動的であり, 活性化した受容体が会合相手を取り替えることによって活性化が増幅伝搬することを発見した. この反応は典型的な自己触媒反応であり, 正常な細胞内では速い逆反応によって活性化の爆発が抑えられると考えられているが, 我々の計測結果は, 活性化伝搬の制限による爆発の抑止機構の存在も示唆している. 活性型の受容体は, さまざまな細胞質蛋白質を認識する. 活性型EGF受容体とアダプター蛋白質の1種Grb2の結合解離反応を1分子計測したところ, 両反応とも複数の速度定数が得られた複数の結合速度定数の存在は, 複数の結合部位を持つためであると解釈できるが, 結合速度と解離速度の間に特定の相関関係が見つけられないので, 解離速度が多成分になる理由はよくわからない. 分子間認識の多状態性は, EGFやNGF受容体の下流で働く低分子量G蛋白質Rasと, セリンスレオニンリン酸化酵素Raflの認識反応においても見いだされている. なお, 細胞膜で活性化されたRasに結合することによって起こる一過的なRaflの細胞内局在変化も, 個々の分子レベルでみれば動的反応でありRanの細胞膜への集積は動的平衡によって維持されていることが分かっている. 一方, 神経成長因子(NGF)は神経細胞の分化, 軸策伸長, 伸長方向誘導などを起こす情報分子である. 伸長する神経軸策の先端にある成長円錐上においてNGF/NGF受容体複合体を1分子観察すると, 大多数の複合体が非常に速く広範囲の側方拡散運動を行っていた. NGFは神経軸策の伸長方向を決定する因子として働き得ることが示されているが, 速く広範囲の運動性は, 方向誘導に必要であろうと予想される局限された領域での反応と一見したところ矛盾している. この矛盾の解決に向けて, 我々はNGF受容体やその下流で細胞運動変形を制御する分子Rho, Racなどの1分子動態計測を行っている. 受容体の運動モードはNGFの結合によって変化するらしい. 以上のように, 細胞内1分子計測によって, 情報分子の動的組織化が情報伝達反応に重要であること, 分子間相互作用が動的で多様であることがわかりつつある. |
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| ISSN: | 0288-6200 |