輸血後に発症した感染症の原因調査に向けて -病院側の対応の注意点
2005年の輸血感染症(疑い)症例報告のうち, 輸血との因果関係が高いと評価された症例は, HBV:11例, HCV:1例, HEV:1例, ヒトパルボウイルスBl9:3例と報告されている. これらの感染原因ドナー血には個別NATでも検出できないものが含まれていた. この結果はスクリーニングNAT導入などによって輸血感染リスクは極めて低くなっているが, 検査法の検出限界による感染リスクはまだ残存していることを示している. このような感染原因を究明できるようになったのは, 1996年9月から全国の血液センターで開始されたドナー検体の凍結保存(11年間)によるところ大である. また, 遡及調査体制...
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Published in | 日本輸血細胞治療学会誌 Vol. 52; no. 4; p. 471 |
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Main Author | |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
日本輸血・細胞治療学会
01.09.2006
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ISSN | 1881-3011 |
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Summary: | 2005年の輸血感染症(疑い)症例報告のうち, 輸血との因果関係が高いと評価された症例は, HBV:11例, HCV:1例, HEV:1例, ヒトパルボウイルスBl9:3例と報告されている. これらの感染原因ドナー血には個別NATでも検出できないものが含まれていた. この結果はスクリーニングNAT導入などによって輸血感染リスクは極めて低くなっているが, 検査法の検出限界による感染リスクはまだ残存していることを示している. このような感染原因を究明できるようになったのは, 1996年9月から全国の血液センターで開始されたドナー検体の凍結保存(11年間)によるところ大である. また, 遡及調査体制の充実と医療機関からの自発報告を併せて調査を行うことで, 新たな感染症例の確認ができるようになってきた. しかしながら, ドナーの感染症検査陽転情報に基づいた遡及調査では, 感染リスクドナーが血液センターに再来しないとその発端となる検査情報が得られない. したがって, 国の遡及調査ガイドラインに示されたように医療機関における輸血前後の患者の感染症検査が極めて重要になる. ただし, ガイドラインに示された検査はHBV, HCV, HIVであるため, それ以外の輸血感染症を発見するためには患者に何らかの感染症病変が観察された場合に原因調査を行うことが必要と考えられる. そのためには, 輸血前後(特に輸血前)の患者検体の保存が必要である. 医療機関では検体保管スペースに限りがあるため, 患者検体を長期間保管していないことが多い. しかし, 輸血による感染症原因調査には2年間程度の患者検体(1mL以上)の保管管理は極めて重要である. 患者検体が保管してあれば, 輸血が感染原因であるということを証明することが可能となり, 患者は被害者救済制度の適応対象となり得る. 一方, 最近の研究でHBV既往感染者が化学療法や免疫抑制剤の投与などでウイルスの再活性化が起こること, またHBV既往感染者にHBV感染既往のないヒトの造血幹細胞移植が行われると生着後にHBs抗体が陰性化して肝炎を発症(reverse seroconversion)することなどが報告されている. これらの症例の多くは輸血を受けているため, 輸血後肝炎と疑われることがしばしばある. また, 輸血でHBs抗体が受身移入されて一過性に起こるHBs抗体の陽転化や, 感染症検査の偽陽性反応などにより輸血感染症が疑われることもある. このような症例と輸血感染症を鑑別するためにも, 患者検体の保管管理は極めて重要と考える. これまでの医療機関からの輸血感染症(疑い)症例報告を基に, 病院側の対応の参考となる事例を提示して概説する. |
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ISSN: | 1881-3011 |