細胞機能レベルからみた低出力レーザーの作用

低出力レーザー光が痛みの緩和等, 生体にさまざまな効果を発揮することが知られている. これまで半導体レーザーあるいはHe-Neレーザーが末梢神経組織に直接作用して神経興奮を抑制する実験事実が報告されてきた. しかし, 分子細胞レベルにおける作用メカニズムについてはほとんど解明されていない. われわれは波長830nmの近赤外レーザー光照射(1-5W/cm2)が, げっ歯類の中枢神経活動を可逆的に抑制することを確認し, そのメカニズムを探ってきた. ラット培養海馬ニューロンを用いたパッチクランプ実験をおこなったところ, 近赤外低出力レーザー照射は可逆的にニューロンの静止膜電位を過分極させ, 同時に...

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Published in日本レーザー医学会誌 Vol. 24; no. 3; p. 205
Main Authors 片岡洋祐, 小田-望月紀子, 田村泰久, 崔翼龍, 山田久夫
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本レーザー医学会 28.09.2003
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ISSN0288-6200

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Summary:低出力レーザー光が痛みの緩和等, 生体にさまざまな効果を発揮することが知られている. これまで半導体レーザーあるいはHe-Neレーザーが末梢神経組織に直接作用して神経興奮を抑制する実験事実が報告されてきた. しかし, 分子細胞レベルにおける作用メカニズムについてはほとんど解明されていない. われわれは波長830nmの近赤外レーザー光照射(1-5W/cm2)が, げっ歯類の中枢神経活動を可逆的に抑制することを確認し, そのメカニズムを探ってきた. ラット培養海馬ニューロンを用いたパッチクランプ実験をおこなったところ, 近赤外低出力レーザー照射は可逆的にニューロンの静止膜電位を過分極させ, 同時に膜抵抗を減少させた. さらに, ATP感受性カリウムチャネルの活性化剤(開口薬)をラット海馬スライス標本に投与すると興奮性シナプス伝達が可逆的に抑制されるが, 前もって同レーザーを照射したスライス標本では, 本薬剤の効果が有意に減弱した. 近赤外低出力レーザーが脳内のATP含有量を増加させた以前の実験結果と考えあわせると, 同レーザー照射はニューロンのエネルギー代謝を修飾することにより, 細胞膜上のATP感受性カリウムチャネルを活性化して神経伝達を抑制していることが示唆された.
ISSN:0288-6200