顎変形症患者のtreatment goalの設定

Angleは, 「正常咬合では, すべての歯が切縁から咬頭に至るまで最大の接触関係にあり, この状態がharmony, balance, beauty, artという点で優れており, 矯正治療後にも安定している」とした. その後, Tweedは, 「こうした説は概念的, 画一的であり, 矯正臨床にあっては, 個々の患者に合ったharmony, balance, estheticsを求めるべきである」とした. そして矯正治療目標として, 次の4つを挙げた. 1. 顔貌線の最良の平衡と調和顎変形症の外科的矯正治療においても, まず第一の治療目標として美しさを伴った顔貌(正貌, 側貌)の平衡と調和を...

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Published in日本顎変形症学会雑誌 Vol. 6; no. 2; p. 201
Main Author 花田晃治
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本顎変形症学会 31.10.1996
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ISSN0916-7048

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Summary:Angleは, 「正常咬合では, すべての歯が切縁から咬頭に至るまで最大の接触関係にあり, この状態がharmony, balance, beauty, artという点で優れており, 矯正治療後にも安定している」とした. その後, Tweedは, 「こうした説は概念的, 画一的であり, 矯正臨床にあっては, 個々の患者に合ったharmony, balance, estheticsを求めるべきである」とした. そして矯正治療目標として, 次の4つを挙げた. 1. 顔貌線の最良の平衡と調和顎変形症の外科的矯正治療においても, まず第一の治療目標として美しさを伴った顔貌(正貌, 側貌)の平衡と調和を患者が求めている. では, これを達成するためのtreatment goalをどこにおくべきか? 最近の社会では, 人々が, 患者が自分の考えをはっきりと的確に主張するようになった, という. 三島由紀夫によれば, 「精神のことなんか置きざりにして, 外面だけ美しくしようといふ考へは, 人類の抱く一等浅はかな考へのようだが, この“浅さ”が曲者なのだ. あらゆる“深い”思想が死に絶えたあとに, もっとも“浅い”思想に, 深みが宿るかもしれない. 美しく感じがよいといふことが, 深刻な思想的深みより重要な価値を与へられる社会にきている」. もっとも, ある深さに至る過程に浅さがある, という考えもある. 2. 治療後の歯列弓の安定性外科的矯正治療においては, 特に治療後の安定性が強く求められる. 後戻りのない治療後の状態を保証するためのtreatment goalは? そこに至るための術前, 術後の矯正治療は? 手術法は? 3. 健康な口腔組織治療後の硬, 軟組織の健康の維持, 増進のためのtreatment goalは? 歯周組織のメインテナンスは? 4. 効果的な咀嚼器官摂食, 咀嚼, 燕下, 発音, 呼吸などの顎口腔機能の回復はどこまで可能か? 顎関節症の治療を含めた外科的矯正治療とは? これらのためのtreatment goalは? このフォーラムでは, こうした疑問に対して各施設では, どのように考え, どのように対応しているかを述べていただくことにした. そのために, 歯学部附属病院においてチームアプローチの経験が長いと思われる施設, 地域の矯正歯科専門開業医とのチームアプローチを行っている施設, 形成外科を含めたチームアプローチに取り組んでいる施設などのなかから, 演者をお願いし, 取り組み方の違いも含めて講演していただくことにした. Treatment goalという言葉については, 事前の打ち合わせにおいて, treatment planningのなかに含まれている, 治療後の安定性まで考えている, 咬合, 機能, 審美といった具体的事項も含まれている, 治療途中の検討で修正しながら進められるもの, といった意見が出されたが, 特に統一ははからず講演のなかで各演者に任された. また, 一般論ではフォーラムになりにくいという考えから, 東北大学歯学部附属病院矯正科に来院された, 新患のなかから, 資料を収集していただき, その一患者について具体的なtreatment goalをそれぞれ述べていただくことにした. 従って施設間での重複もあってもよいし, 異なる意見についても調整することはせずに, 聴衆にとって臨床に役に立つ考えが導き出せれば, というフォーラムをねらった. 従って抜歯部位についてはかなりいろんな意見が出された. また, そのなかで患者の求めているもの, 患者の要求度と結果に対する価値観などについても触れられればと考えたが, 審美性について, 患者側と術者側, 術者のなかでも外科医側と矯正歯科医側で, 考え方にずれがあり, 治療後にわたる心理社会学的な対応については依然として問題が残されている.
ISSN:0916-7048