肩関節多方向性不安定性に対する理学療法の治療経験

【はじめに】今回肩関節多方向性不安定症で, 動作時に亜脱臼を呈するため, スポーツ活動のみならず, ADLにおいても著明な障害をきたしていた症例を経験し, 理学療法を施行した結果, 早期にADL障害を回復し得たので文献的考察を加え報告する. 【症例】16歳男性高校2年生, 野球部右投げ. 中学時代投手で, トレーニングは200球程度投げ込み, 腕立伏せ, ベンチプレスなど行い, 時折投球時右肩痛を感じていたが続けていた. 高校入学前, 投球時に疼痛と共に亜脱臼するのを感じ始, その後症状増強し不変のため当科受診. 【初診時所見右側】理学所見は, 前, 後, 下方への不安定感を認め, 肩挙上70...

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Published in理学療法学 Vol. 30; no. suppl-2; p. 23
Main Authors 葉清規, 川波賢一, 平木強志, 古岡智子, 楫野允也, 村瀬正昭, 畠山英嗣
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本理学療法士協会 20.04.2003
公益社団法人日本理学療法士協会
Japanese Physical Therapy Association (JPTA)
Subjects
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ISSN0289-3770

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Summary:【はじめに】今回肩関節多方向性不安定症で, 動作時に亜脱臼を呈するため, スポーツ活動のみならず, ADLにおいても著明な障害をきたしていた症例を経験し, 理学療法を施行した結果, 早期にADL障害を回復し得たので文献的考察を加え報告する. 【症例】16歳男性高校2年生, 野球部右投げ. 中学時代投手で, トレーニングは200球程度投げ込み, 腕立伏せ, ベンチプレスなど行い, 時折投球時右肩痛を感じていたが続けていた. 高校入学前, 投球時に疼痛と共に亜脱臼するのを感じ始, その後症状増強し不変のため当科受診. 【初診時所見右側】理学所見は, 前, 後, 下方への不安定感を認め, 肩挙上70゜程度で不随意性に亜脱臼を呈した. 自覚症状で動作時痛, 夜間痛, 亜脱臼時上肢へしびれ, 視診で棘下筋萎縮, 肩甲骨下方回旋位, 内側浮き上がり, 触診で大胸筋に強い圧痛, JOAscore(JS)50点であった. 画像所見は, 下方ストレス撮影で遠藤の分類よりII型, 下降率60%, 挙上位撮影でslipping陽性, FSHangle(FA)135゜であり, 前後撮影, MRIで明らかな器質的問題はなかった. 【理学療法経過】肩甲胸郭関節機能訓練, 腱板機能訓練, 肩挙上自動介助運動より開始. 挙上は90゜程度まで仰臥位で大胸筋に, 90゜以上は腹臥位で広背筋, 大円筋を徒手的に圧迫し, 肩甲骨上方回旋の誘導を加え施行. 18日目, ADLでは洗髪などのover head動作可能となるが, 不意な動作, 他動運動, 回旋を加えると亜脱臼を呈した. 60日後, 下方への不安定感を認めたが, 前, 後方へは認めず, JS90点で, 動作時亜脱臼を呈することはなく, ADL障害は消失した. 画像所見は, 下方ストレス撮影で下降率48%, 挙上位撮影でFA85゜であった. 120日後, JS95点となったが, 仰臥位他動挙上では亜脱臼を呈した. 【考察】井樋は肩不安定症の病態を関節内圧異常と筋協調運動異常とし, 後者は前者の結果生じる可能性が高いとしている. 本症例は元来肩が緩く, outer muscle中心のトレーニングによる骨頭剪断力増加と, overuseによる関節内組織への繰り返す微小損傷により, 関節包拡大し, 肩甲上腕, 胸郭関節機能不全を呈したと考えた. 伊藤は随意性肩関節脱臼で, 筋電学的に脱臼時方向別で個々の筋活動増加を報告している. 本症例は随意性ないが筋活動により剪断力が増加していると考え, 挙上角度別に筋に圧迫を加え抑制を図ると挙上可で, 他動, 圧迫なしの挙上で亜脱臼を呈した. これらのことから, 選択的な筋の抑制を考慮し, 回旋筋腱板, 肩甲骨周囲筋を促通することで, 動作時の亜脱臼を予防できると考えた. 肩不安定症の自然経過は病態変化や自然治癒など報告されている. 本症例は動作時亜脱臼を呈さなくなり, ADL障害改善したが, 他動運動での不安定感は残存していることから, 理学療法により良好な経過が得られたと考える.
ISSN:0289-3770