犯罪被害者が警察への届出を躊躇する要因-被害者支援に携わる弁護士対象のアンケート調査

犯罪被害者支援の重要性の認識は, 近年ようやく広まってきたが, まだ適切な支援が十分に行き届いているとはいえない. その一因として, 犯罪被害には警察等捜査機関への届出がない, いわゆる暗数が多いことが指摘されているが, これまで暗数化の要因については実証的資料が乏しい. そこで, 本研究では暗数化の要因を検討するための一段階として, 近年の法整備に伴い被害者支援で重要な役割を担うようになってきた弁護士を対象に質問紙調査を実施し, 58名から有効回答を得た. 被害者支援弁護士が報告した相談の経験は, 男女とも「傷害」が最も多く, 女性弁護士は性被害の相談を受けることが多かった. 被害者は加害者...

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Published inこころの健康 Vol. 23; no. 1; pp. 22 - 32
Main Author 稲本絵里
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本精神衛生学会 30.06.2008
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ISSN0912-6945

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Summary:犯罪被害者支援の重要性の認識は, 近年ようやく広まってきたが, まだ適切な支援が十分に行き届いているとはいえない. その一因として, 犯罪被害には警察等捜査機関への届出がない, いわゆる暗数が多いことが指摘されているが, これまで暗数化の要因については実証的資料が乏しい. そこで, 本研究では暗数化の要因を検討するための一段階として, 近年の法整備に伴い被害者支援で重要な役割を担うようになってきた弁護士を対象に質問紙調査を実施し, 58名から有効回答を得た. 被害者支援弁護士が報告した相談の経験は, 男女とも「傷害」が最も多く, 女性弁護士は性被害の相談を受けることが多かった. 被害者は加害者が知人である場合, より警察へ被害届を出しづらく, 弁護士の支援をより必要とすることが示唆された. 暗数化の要因として例示した20項目の因子分析から, 「被害者の心理的負担」「警察への不信」「情報不足と対加害者関係」の3因子が得られた. 「被害者の心理的負担」はとくに性暴力の被害者に当てはまる要因と思われ, 他のどの被害よりも被害に遭ったことを周囲に知られることに抵抗を感じる人が多いことが示された. 女性被害者のために女性の弁護士などの相談相手がもっと必要と思われる. 「警察への不信」は, 「傷害」「強姦」被害で暗数化の要因になりやすいことが示唆された. 「情報不足と対加害者関係」因子からは, 被害届の提出方法など警察へ届け出る以前の段階での情報が不足していることと, 「傷害」「ストーカー」「詐欺」や性犯罪被害では加害者との関係が届出を躊躇させていることが示唆された. 以上のように, 被害の種類によって暗数化の要因が異なるとすれば, それによって必要な対策も異なるであろう. 本調査のような, 弁護士など被害者支援の専門家から情報を得る研究は, 犯罪被害者支援の充実のために有効と思われる.
ISSN:0912-6945