4. 脱水・電解質異常・急性腎不全を呈した直腸絨毛腫瘍の一例
【症例】76歳の男性で, 糖尿病でインスリン治療を受けていた. 平成19年12月に食思不振が出現, 平成20年5月になり血糖コントロールが悪化した. 近医で入院加療を受けていたが, 腎機能障害も併発し, 当院へ転院となった. 難治性の下痢も続いており, 入院時血液検査では, Na 118.0mEq/L, K 4.0mEq/L, Cl 78.0mEq/L, BUN 137mg/dL, Cr 3.06mg/dLと著明な低Na・Cl血症, 腎機能障害を呈していた. 腹部骨盤CTでは, 直腸に全周性の腫瘍を認めた. 周囲への浸潤像やリンパ節腫大は認めなかった. 下部消化管内視鏡検査で, 直腸に全周性で...
Saved in:
Published in | THE KITAKANTO MEDICAL JOURNAL Vol. 59; no. 2; pp. 192 - 193 |
---|---|
Main Authors | , , , , , , , |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
北関東医学会
01.05.2009
|
Online Access | Get full text |
ISSN | 1343-2826 |
Cover
Summary: | 【症例】76歳の男性で, 糖尿病でインスリン治療を受けていた. 平成19年12月に食思不振が出現, 平成20年5月になり血糖コントロールが悪化した. 近医で入院加療を受けていたが, 腎機能障害も併発し, 当院へ転院となった. 難治性の下痢も続いており, 入院時血液検査では, Na 118.0mEq/L, K 4.0mEq/L, Cl 78.0mEq/L, BUN 137mg/dL, Cr 3.06mg/dLと著明な低Na・Cl血症, 腎機能障害を呈していた. 腹部骨盤CTでは, 直腸に全周性の腫瘍を認めた. 周囲への浸潤像やリンパ節腫大は認めなかった. 下部消化管内視鏡検査で, 直腸に全周性で丈の高い隆起性病変を認めた. 表面構造はほぼ均一な絨毛状で, 粘液が多量に付着していた. EUSで, 腫瘍による筋層の破綻を疑わせる所見は認めなかった, 生検ではtubulovillous adenomaであった. 大腸造影X線検査では, 直腸RaRb領域にapple core signを認めたが, 腸管壁の伸展性は保たれていた. 下痢は難治で症状に波があり, 連日の補液・内服治療にも関わらず, BUN 161.8mg/dL, Cr 6.89mg/dLまで上昇する急性腎障害と, 血糖500mg/dL超の高血糖を来すこともあったが, 大量の輸液による脱水の補正, インスリン投与で速やかな改善をみた. 以上から, 直腸絨毛腫瘍に伴って下痢・脱水・電解質異常・高血糖をきたすElectrolyte depletion syndrome(EDS)と診断し, 切除の方針とした. 精査で進行癌の所見を認めず, 内視鏡下粘膜下層剥離術について検討したが, 全周性の巨大腫瘍で, 術後の狭窄が懸念されたため, 外科的切除の方針とし, 腹会陰式直腸切断術D2郭清を施行した. 摘出標本の肉眼所見は, 径150×90×25mmの巨大な全周性絨毛腫瘍で, 腫瘍は軟らかく悪性の所見は認めなかった. 腫瘍を全割し検索したところ, 腫瘍表面はすべて絨毛腺腫で覆われていたが, 深部に径15×12mmの癌を認め, 病理学的にtubular adenocarcinoma, well differentiated type(tub1), pSS, iNFa, ly1, v1, pN0, sH0, sP0, cM0, fStageIIと診断された. 術後6か月現在, 下痢・電解質異常・腎障害の再燃や, 癌の再発の徴候は認めていない. 【考察】絨毛腫瘍villous tumorは, 肉眼的に隆起性病変の大部分の表面構造が絨毛状ないし微細顆粒状で, 割面および組織学的にも絨毛状構造を呈する腫瘍と定義される. 大腸腫瘍の0.8%, 大腸腺腫の1.3~3.4%を占め, 直腸からS状結腸に好発し, 腫瘍径5cmを超えるものでは癌の併存率が80%と高率であると報告されている. 腫瘍径に比して深達度が浅いことが多いことから, 早期癌症例には縮小手術を推奨する報告の一方, 進行癌症例も少なからず存在することや, 局所切除後の再発例の報告もあり, 術式の選択には慎重を要するとの意見もある. 絨毛腫瘍からの大量の粘液分泌により脱水, 電解質異常をきたすことがあり, EDSと呼ばれる. EDSを併発する頻度は絨毛腫瘍の0.76~2.4%と稀であるが, 腫瘍径が10cmを越えると発症が増加するといわれる. 切除により改善が期待できるが, EDSによるショックで救急搬送された症例や死亡例も報告されている. 本症例では, 直腸絨毛腫瘍によりEDSを来たし, 耐糖能が悪化したと考えられた. 術前検査や摘出標本の肉眼所見でも癌の合併は不明であったが, 病理組織検査で絨毛腫瘍の深部に漿膜下に達する進行癌を認め, 術前診断の困難性が指摘された. 【結語】難治性の下痢の鑑別疾患として, 絨毛腫瘍も念頭におく必要がある. 絨毛腫瘍では, 術前・術中の癌の局在, 深達度の診断は困難であり, 術式の選択には充分な検討が必要である. |
---|---|
ISSN: | 1343-2826 |