変形性膝関節症を有する左片麻痺患者の歩行におけるROSIの有用性を検討した一症例

【目的】 脳血管障害患者の歩行能力低下の一要因としてフォアフットロッカー(以下、FR)機能低下が挙げられる。今回、北海道科学大学昆らが考案したFRを構築する逆オメガ形状カーボンプレートインソール型装具(以下、ROSI:Reverse Omega Shoe Insole)を、左変形性膝関節症(以下、膝OA)を有する左片麻痺患者の歩行練習に用いた結果、歩行速度に改善を認めたため、ROSIの有用性について検討することを目的とする。【症例紹介】 アテローム血栓性脳梗塞(右中大脳動脈領域)発症した60歳代女性。発症後22病日目に当院回復期リハビリテーション病棟へ入院、153日間理学療法を実施した患者。併...

Full description

Saved in:
Bibliographic Details
Published inKyushu physical therapist Congress Vol. 2023; p. 17
Main Authors 桂田 智基, 片寄 慎也, 飛永 浩一朗, 大田 瑞穂
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会 2023
Kyushu Physical Therapy Association
Subjects
Online AccessGet full text
ISSN2434-3889
DOI10.32298/kyushupt.2023.0_17

Cover

More Information
Summary:【目的】 脳血管障害患者の歩行能力低下の一要因としてフォアフットロッカー(以下、FR)機能低下が挙げられる。今回、北海道科学大学昆らが考案したFRを構築する逆オメガ形状カーボンプレートインソール型装具(以下、ROSI:Reverse Omega Shoe Insole)を、左変形性膝関節症(以下、膝OA)を有する左片麻痺患者の歩行練習に用いた結果、歩行速度に改善を認めたため、ROSIの有用性について検討することを目的とする。【症例紹介】 アテローム血栓性脳梗塞(右中大脳動脈領域)発症した60歳代女性。発症後22病日目に当院回復期リハビリテーション病棟へ入院、153日間理学療法を実施した患者。併存疾患は左膝OA(発症前は屋外独歩自立)。理学療法評価は研究開始時点でFugl-Meyer Assessment下肢運動項目(以下、FMA):23/34点、基本動作:自立、歩行:T字杖・踵くりぬき型短下肢装具(以下、AFO)、膝装具(OA-GX)で屋内歩行自立、屋外歩行軽介助、歩行時痛なし。MMSEは30/30点、高次脳機能障害は認められなかった。【倫理的配慮】 本研究は、症例の同意と本法人研究倫理審査委員会の承認(承認番号:23-275)を得た。【方法】 AB型研究デザインを用いた。①A期:麻痺側のインソールにROSIを用いた歩行練習期間(発症後121日から3週間)、②B期:ROSIを除去した歩行練習期間(発症後142日から3週間)、計6週間とした。A期・B期ともにT字杖、AFOと左膝装具を装着し歩行練習を行った。評価はA期前、A期後、B期後の最終日に3次元動作解析装置(VICON社VICON MX)と床反力計(AMTI社)を用い歩行解析をT字杖、AFO、左膝装具着用の条件で計測した。評価指標は歩行速度・ステップ長、立脚後期の床反力進行方向成分(推進力)、足関節の角度、モーメント、パワー、Tailing Limb Angle(TLA)、前遊脚期・遊脚期の膝関節屈曲角度の最大値を麻痺側下肢で算出し、比較検討した。【結果】 歩行速度(m/sec):A期前0.56、A期後0.62、B期後0.62、麻痺測ステップ長(m):0.49、0.52、0.52、非麻痺測ステップ長(m):0.41、0.44、0.46、推進力(N/㎏):0.041、0.067、0.046、足関節底屈角度(deg):6.7、7.7、5.8、足関節底屈モーメント:0.88、0.85、0.86、足関節求心性パワー(W/Kg):0.53、0.69、0.57、TLA(deg):4.8、8.3、7.2、前遊脚期膝関節屈曲角度(deg):47.3、45.5、45.9、遊脚期膝関節屈曲角度(deg):48.1、47.9、47.5であった。また、FMAは25点、屋外歩行はT字杖、AFO、左膝装具にて見守りレベルとなった。【考察】 昆ら(2022)は脳卒中片麻痺患者を対象に背屈制動付きAFOとROSIを併用することによりFR機能が改善したと報告している。今回、併存疾患にFR機能の低下が生じるとされる膝OAを麻痺側に有している片麻痺患者にROSIを用いた。本症例においても、ROSIを用いたA期では、推進力、足関節底屈角度・求心性パワー、TLAが向上し、歩行速度とステップ長の向上が認められた。これによりAFOとROSIの併用による効果が示唆された。しかし、B期後では、歩行速度とステップ長、TLA以外の数値がROSI導入前の計測値と同等の値となっていることから、ROSIによる改善依存度が高いことが示唆された。今回、B期後も歩行速度が維持された要因として、ROSI装着により一時的に得られた推進力が、ステップ長、TLAを増大させ、歩行速度の向上を促し、さらに3週間の継続的介入による運動学習が影響したことと推察した。つまり、ROSIはFR機能を補助し歩行能力向上に寄与していたが、OAを有する患者においては足部からの運動連鎖の機能不全にも着目した理学療法が必要であることが考えられた。 今後、症例数を増やし、多角的な因子からROSIの有用性を検証することが必要である。
ISSN:2434-3889
DOI:10.32298/kyushupt.2023.0_17