仙腸関節前面の肉眼解剖的観察

【目的】 仙腸関節の安定性のメカニズムとして種々の報告がなされているが、仙腸関節前方要素の直接的な動的安定化についての報告は散見されない。そこで、今回仙腸関節前面を肉眼的に解剖し安定性について検討したので報告する。【対象】 熊本大学医学部形態構築学分野で教育・研究に使用された遺体3体6肢(男性1体、女性2体)を用いた。遺体はすでに腹腔・骨盤内臓器は摘出されていた。寛骨は仙腸関節よりやや遠位部で切断されており、仙棘靭帯、仙結節靭帯遠位および梨状筋の大転子停止部は切離されていた。また大腰筋は完全に切除されていた。【方法】 まず剖出を容易にするため、腰部体幹から下肢へ向かう神経および血管を切断した。...

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Published in九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 Vol. 2008; p. 97
Main Authors 上村 龍輝, 新谷 大輔, 山道 和美, 山田 浩二
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 九州理学療法士・作業療法士合同学会 2008
Joint Congress of Physical Therapist and Occupational Therapist in Kyushu
Subjects
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ISSN0915-2032
2423-8899
DOI10.11496/kyushuptot.2008.0.97.0

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Summary:【目的】 仙腸関節の安定性のメカニズムとして種々の報告がなされているが、仙腸関節前方要素の直接的な動的安定化についての報告は散見されない。そこで、今回仙腸関節前面を肉眼的に解剖し安定性について検討したので報告する。【対象】 熊本大学医学部形態構築学分野で教育・研究に使用された遺体3体6肢(男性1体、女性2体)を用いた。遺体はすでに腹腔・骨盤内臓器は摘出されていた。寛骨は仙腸関節よりやや遠位部で切断されており、仙棘靭帯、仙結節靭帯遠位および梨状筋の大転子停止部は切離されていた。また大腰筋は完全に切除されていた。【方法】 まず剖出を容易にするため、腰部体幹から下肢へ向かう神経および血管を切断した。仙腸関節前面に付着する腸腰靱帯、前仙腸靭帯を耳状面に沿ってピンセットおよびはさみにて切離した。その際、すでに停止部の大転子付着部で切離されている梨状筋を中枢側の仙骨起始部へ翻しながら行った。腸腰靱帯、前仙腸靭帯を切離後、仙腸関節耳状面および後方の骨間仙腸靭帯を引き剥がして視野を広げ、仙腸関節前面および梨状筋起始部を観察し写真撮影を行った。さらに仙骨の梨状筋起始部の最上部と耳状面下端の直線距離、垂直距離および耳状面全体の距離を測定した。【結果】 梨状筋上方の筋線維は、仙腸関節耳状面の前面下方に重なり横断するように走行していた。梨状筋起始部の最上部と仙腸関節耳状面下端の直線距離は18.8mm±6.7mm、垂直距離は10.8±3.1mm、垂直距離/耳状面の全体距離×100(%)は20.7%±6.2%であった。【考察】 梨状筋は股関節外旋六筋の中で唯一仙骨に起始をもち、尾骨筋の上方に位置する。梨状筋の一部が仙腸関節耳状面の前面下方に重なって横断するように走行することから、仙腸関節に可動性がある場合、閉鎖運動連鎖のような停止部が固定している状況下では、梨状筋の収縮により仙腸関節前面下方が閉じる方向に作用すると考えられる。したがって、梨状筋は仙腸関節前方の安定性に一部貢献する可能性が考えられる。 仙腸関節近傍に疼痛を訴える場合や仙腸関節の安定性低下が疑われる場合は、梨状筋の機能評価が必要であることが示唆された。
ISSN:0915-2032
2423-8899
DOI:10.11496/kyushuptot.2008.0.97.0