尺骨鉤状突起骨折の治療経験

【はじめに】肘関節周辺の骨折では、観血的内固定術後に神経障害を認める報告が散見される。我々は、尺骨鉤状突起の単独骨折に対し保存的に加療し、一時的に末梢神経障害を疑う所見により、関節可動域改善に難渋した症例を経験したので報告する。 【対象・方法】症例は60歳代女性。後方へ転倒し受傷し他院にてギプス固定され、6週経過にて当院受診しギプス除去と同時に運動療法を開始した。初回評価時は肘関節屈曲90度、伸展-70度、前腕回内70度、回外30度、手関節掌屈50度、背屈30度と制限は強く、また自動運動時、他動運動時ともに強い防御性収縮による疼痛が出現していた。  さらに、上腕部遠位から手指に著明な浮腫と手関...

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Published in関東甲信越ブロック理学療法士学会 Vol. 29; p. 126
Main Authors 北澤 裕次郎, 矢内 宏二, 堀内 亘, 長見 豊
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会 2010
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ISSN0916-9946
2187-123X
DOI10.14901/ptkanbloc.29.0.126.0

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Summary:【はじめに】肘関節周辺の骨折では、観血的内固定術後に神経障害を認める報告が散見される。我々は、尺骨鉤状突起の単独骨折に対し保存的に加療し、一時的に末梢神経障害を疑う所見により、関節可動域改善に難渋した症例を経験したので報告する。 【対象・方法】症例は60歳代女性。後方へ転倒し受傷し他院にてギプス固定され、6週経過にて当院受診しギプス除去と同時に運動療法を開始した。初回評価時は肘関節屈曲90度、伸展-70度、前腕回内70度、回外30度、手関節掌屈50度、背屈30度と制限は強く、また自動運動時、他動運動時ともに強い防御性収縮による疼痛が出現していた。  さらに、上腕部遠位から手指に著明な浮腫と手関節遠位小指側に痺れが出現していたが、その他のTinel徴候や運動麻痺等の神経症状は認められなかった。 【結果】関節可動域は運動療法開始より徐々に改善が認められ、受傷後8週で屈曲95度、伸展-55度、10~12週で屈曲120度、伸展-30度と変化し、それと共に痺れと浮腫も軽度改善した。しかし、受傷後10週以降から徐々に可動域の改善が停滞し、受傷後12週で強固な可動域制限と肘関節後内側から前腕尺側にかけて屈曲時に疼痛が認められた。  受傷後13週でキネシオテープを上腕部に貼付し運動療法を開始したところ、即時的な疼痛の改善と可動域の増大が得られ、受傷後16週で屈曲150度、伸展0度となり日常生活活動に制限がなくなった。 【考察】尺骨鉤状突起骨折は、ReganらによりType_I_~_III_と、脱臼の有無で分類され、Type_III_と脱臼が認められた場合手術適応となり、Type_I_では保存療法が適応となるが、Type_II_ではその治療法は統一されていない。  本症例は他院にてType_II_で脱臼がないことから、保存療法が選択されたと考えるが、通常3週から運動療法を開始するところ、6週という比較的長期な固定をしていた。 運動療法開始時では関節構成体由来での可動域制限があると考えアプローチしたが、10週~12週で明らかに損傷部位とは異なる部位に疼痛と軽度の痺れの訴えを認めた。13週以降では治療方針を変更し、痺れに対しての治療を行い、軟部組織自体の可動性の改善を図ることで、痺れと関節可動域の改善が得られた。  外傷性肘関節拘縮の制限因子について述べている報告の中で、外傷後の僅かな軟部組織の変化で神経が絞厄され、ある屈曲角度から疼痛により関節可動域を制限すると述べている。本症例において、軟部組織の可動性が低下したことで、一時的な絞厄性神経障害が認められたのではないかと考察した。  肘関節の骨折では、末梢神経損傷が認められない場合でも、軟部組織の可動性の低下により絞厄性障害が出現し、関節可動域に制限を起こす可能性があることが考えられた。
ISSN:0916-9946
2187-123X
DOI:10.14901/ptkanbloc.29.0.126.0