老年期痴呆の形態学的背景に関する研究 老人斑多数出現例の臨床病理学的検討
一般老人病院における老年期痴呆の形態学的背景として脳血管性痴呆の多いことが知られているが, 一方, 老年痴呆がどの程度にみられるかは明らかでない. 今回は老人斑多数出現例についてこの点を検討した. 対象は60歳以上の剖検脳500例のうち, 側頭葉・アンモン角について老人斑の多数みとめられた44例 (SP例) と, 老人斑陰性の50例である. これらについて, 脳の肉眼的所見特に硬塞性病変, 組織学的所見を対比し, 以下の結果を得た. 1) SP例は高齢化とともにその頻度が増加し, 90歳以上では女性の方に頻度がか高った (30%). 2) SP例では, 生前痴呆の明らかであったものは85%を占...
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Published in | 日本老年医学会雑誌 Vol. 16; no. 1; pp. 1 - 6 |
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Main Author | |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
一般社団法人 日本老年医学会
30.01.1979
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ISSN | 0300-9173 |
DOI | 10.3143/geriatrics.16.1 |
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Summary: | 一般老人病院における老年期痴呆の形態学的背景として脳血管性痴呆の多いことが知られているが, 一方, 老年痴呆がどの程度にみられるかは明らかでない. 今回は老人斑多数出現例についてこの点を検討した. 対象は60歳以上の剖検脳500例のうち, 側頭葉・アンモン角について老人斑の多数みとめられた44例 (SP例) と, 老人斑陰性の50例である. これらについて, 脳の肉眼的所見特に硬塞性病変, 組織学的所見を対比し, 以下の結果を得た. 1) SP例は高齢化とともにその頻度が増加し, 90歳以上では女性の方に頻度がか高った (30%). 2) SP例では, 生前痴呆の明らかであったものは85%を占めていた. 3) 脳萎縮はSP例で高度で, 脳室拡大は逆に老人斑陰性群の方に著明であった. 4) 脳底部の動脈硬化はSP群で57%, 対照群で74%で, SP群にやや少いが有意差はなかった. 5) 脳血管障害性変化の有無は, SP群65%で対照群72%に比してやや少いが有意差はなかった. 中, 大硬塞と小硬塞がほぼ半数であった. 6) 脳動脈硬化, 硬塞巣の全くないSP例は6例あり, 65歳から84歳で, 男2, 女4例であった. 2例の脳重量は平均以下で, 老人斑は側頭葉, 後頭葉に著しく, 神経細胞の脱落, アルツハイマー原線維変化, 顆粒空泡変性, 平野小体もほぼ全例にみとめられた. 臨床的には, 高血圧はなく, 生前に老年痴呆と診断されていない. 7) 老年期痴呆の形態学的分類として, 別の原因によるものを除いた101例中, 脳血管性痴呆は54%, 老年痴呆 (pure form) は16%であったが, 硬塞巣を有するが老年痴呆と考えられるものを入れると32%になり, 老年痴呆は実際にはかなり存在すると思われる. 両者の合併したもののどこまでを混合型にするかについては, 尚多くの臨床病理学的検討が必要と考えられた. |
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ISSN: | 0300-9173 |
DOI: | 10.3143/geriatrics.16.1 |