Protease-activated receptor(PAR)-1,2の肺血管内皮細胞における細胞増殖への影響

【背景】生体内のほとんど全ての組織に存在する血管内皮細胞は, 酸素や栄養物の供給という重要かつ共通の役割をもつ. ところが, 近年, 血管内皮細胞の表現型が由来する組織によって大きく異なることが明らかになり, 血管内皮細胞の局在別の機能が注目されはじめている. 我々はこれまでに肺の血管内皮細胞の表現型を研究対象とし, 特に, 疾患に伴って変化する表現型の検索を行ってきた. その結果, 肺腺癌の肺血管内皮細胞において, 7回膜貫通型レセプターであるprotease-activated receptor(PAR)1とPAR2に発現の増加がみられることが分かった. PAR1, PAR2はG-prot...

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Published inJournal of Nippon Medical School Vol. 70; no. 6; pp. 562 - 563
Main Author 藤原正和
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本医科大学医学会 15.12.2003
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ISSN1345-4676

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Summary:【背景】生体内のほとんど全ての組織に存在する血管内皮細胞は, 酸素や栄養物の供給という重要かつ共通の役割をもつ. ところが, 近年, 血管内皮細胞の表現型が由来する組織によって大きく異なることが明らかになり, 血管内皮細胞の局在別の機能が注目されはじめている. 我々はこれまでに肺の血管内皮細胞の表現型を研究対象とし, 特に, 疾患に伴って変化する表現型の検索を行ってきた. その結果, 肺腺癌の肺血管内皮細胞において, 7回膜貫通型レセプターであるprotease-activated receptor(PAR)1とPAR2に発現の増加がみられることが分かった. PAR1, PAR2はG-protein共有型のレセプターで, 様々な細胞で発現し, 細胞増殖, 血管収縮, 血小板凝集など, 幅広い機能に関与することが知られている. しかしながら, 肺腺癌におけるPAR1, PAR2の発現増加の意義やその役割はいまだ明らかになっていない. 今回, 我々は, 肺腺癌において血管新生が, 他の固形癌同様, 多く観察されることから, PAR1とPAR2による血管内皮細胞の細胞増殖への影響に注目した. さらに, 血管内皮細胞が組織特異的な表現型を持つことから, 肺組織由来の血管内皮細胞でのPAR1, PAR2の選択的, 特異的な反応にも注目した. 【目的】肺腺癌におけるPAR1, PAR2の発現増加と顕著な血管新生との関連を明らかにすることを目的に, 肺血管内皮細胞におけるPAR1, PAR2の細胞増殖への影響を検討した. また, PAR1, PAR2の作用が肺血管内皮細胞において選択的, 特徴的なものであるかを同時に比較, 検討した. 【方法】血管内皮細胞の組織特異性を示すために, 肺血管内皮細胞として肺動脈由来のhuman pulmonary artery endothelial cell(HPAEC)を, 対照の血管内皮細胞として臍帯静脈由来のhuman umbilical vein endothelial cell(HUVEC)を用いた. また, PAR1の活性化にはα-thrombinと特異的アゴニストペプチドSFLLRNを, PAR2の活性化には特異的アゴニストペプチドSLIGKVを用いて行った. さらに, PAR2ではTNF-αで活性化した血管内皮細胞での影響も検討した. 血管内皮細胞の増殖は, これらの活性化因子で12時間刺激し, その後, チミジンのアナログであるIdU存在下で6時間培養を行った細胞で測定した. 細胞に取り込まれたIdUはELISA法によって検出, 測定した. 【結果】<PAR1の活性化に伴ったDNA合成の亢進>PAR1の細胞増殖への影響を検討するために, 先ず, α-thrombinを用いてPAR1を活性化させた. その結果, HPAECとHUVECのIdUの取込みに濃度依存的な増加がみられた. また, α-thrombinによるIdUの取込みは, HPAECにおいて, より感受性が強いことが分かった. さらに, PAR1をアゴニストペプチドSFLLRNによって活性化させたところ, IdUの取込みはHPAECにおいて強く亢進され, HPAECとHUVECの間にPAR1活性化による違いがみられた. <PAR2の活性化に伴ったDNA合成の亢進>次に, PAR2の細胞増殖への影響を, アゴニストペプチドSLIGKVを用いて検討した. その結果, PAR1とは対照的にPAR2はIdUの取り込みに関与しなかった. そこで, 肺腺癌でその発現が確認され, かつ, PAR2 mRNAの産生を促すTNF-αでHPAECとHUVECを前処理した. その結果, PAR2のmRNAは, 未処理の約6~7倍に増幅した. この状態のHPAEC, HUVECにSLIGKVを添加したところ, PAR2の発現はmRNAレベルにおいて同等に増加しているのにも関わらず, IdUの取込みはHPAECにおいてのみ亢進した. このことから, PAR2の活性化においてもHPAECとHUVECの間でIdUの取込みに差があることが認められた. 【考察】今回の結果から, PAR1, PAR2がより選択的に肺血管内皮細胞のDNA合成を促進することが強く示唆された. また, PAR2を介したDNA合成の亢進にはTNF-αの存在が必要であったことから, 肺腺癌においても同様な機構によってPAR2が機能していることが考えられた. これらのことから, PAR1やPAR2の発現が増加した肺腺癌では, 肺血管内皮細胞のPAR1やPAR2が細胞増殖または血管新生に関与し, 肺腺癌の疾患形成に重要な役割を果たしていることが予想された.
ISSN:1345-4676