後頭蓋窩髄外海綿状血管腫の一例

<はじめに>海綿状血管腫は異常に拡張した洞様血管が限局的に密に集合し, そのため各血管の間に正常脳組織がみられない先天性血管奇形である. その多くは脳実質内に発生する. 髄外のものはまれであり, 殆どは中頭蓋窩に発生するとされている. 今回我々は後頭蓋窩に発生した髄外海綿状血管腫の一例を経験したので文献的考察を含め報告する. <症例>患者:54歳, 男性. 主訴:後頭部痛, ふらつき感, 嘔気. 既往歴・家族歴:特記事項なし. 現病歴:数年前から後頭部痛・ふらつき感を自覚していた. 平成16年6月中旬頃から次第に憎悪し, 嘔気も出現するようになった. 6月26日近医受診...

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Published in日本農村医学会雑誌 Vol. 54; no. 3; p. 464
Main Authors 折本有貴, 国本圭市, 山本昌幸
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本農村医学会 01.09.2005
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ISSN0468-2513

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Summary:<はじめに>海綿状血管腫は異常に拡張した洞様血管が限局的に密に集合し, そのため各血管の間に正常脳組織がみられない先天性血管奇形である. その多くは脳実質内に発生する. 髄外のものはまれであり, 殆どは中頭蓋窩に発生するとされている. 今回我々は後頭蓋窩に発生した髄外海綿状血管腫の一例を経験したので文献的考察を含め報告する. <症例>患者:54歳, 男性. 主訴:後頭部痛, ふらつき感, 嘔気. 既往歴・家族歴:特記事項なし. 現病歴:数年前から後頭部痛・ふらつき感を自覚していた. 平成16年6月中旬頃から次第に憎悪し, 嘔気も出現するようになった. 6月26日近医受診し頭部CTにて右の小脳腫瘍を指摘された. 6月28日当科に紹介受診した. 神経学的所見:神経学的検査では異常を認めない. 画像所見:頭部CTでは, 右小脳に約4cmの占拠性病変を認めた. 腫瘍は軽度高吸収域に描出され, 周辺の浮腫は軽く, 石灰化は見られなかった. MRIで腫瘍は大後頭孔近傍の硬膜から小脳内に発育しており, T1強調像で低信号域, T2強調像では高信号域, ガドリニウム造影像では全体に強く造影された. 脳血管撮影では右後頭動脈から分枝する栄養動脈がナイダス様に描出されたが, 腫瘍濃染像は軽度であった. 右椎骨動脈, 脳底動脈, 後下小脳動脈の腫瘍による圧排所見を認めた. 以上の所見より右後頭蓋窩の髄膜腫あるいは髄外海綿状血管腫が疑われた. 手術所見, 病理組織診断:右後頭下開頭を施行した. 下方は大後頭孔まで骨切除を加えた. 腫瘍は淡赤色で比較的柔らかかった. まず腫瘍の硬膜付着部を凝固し, 切除した. 易出血性であったが, バイポーラ焼灼にてコントロールは可能であった. 腫瘍とその周辺の脳との癒着は軽く周囲から剥離し一塊に摘出した. 硬膜付着部の凝固を追加して, 手術を終了した. 組織学的には大小さまざまに拡張した血管腔が密に集合しており, その間に神経組織が存在せず, 海綿状血管腫と診断した. 術後経過:術後経過は良好で, 17日目に神経脱落症状なく独歩退院した. 次第に自覚症状も消失し, 術後4か月後に職場復帰をはたした. <考察>髄外海綿状血管腫は硬膜の脈管系から発生し, 脳実質から区別されているものをいう. 発生頻度は5%以下とまれで, そのほとんどは海綿静脈洞を発生起源とする中頭蓋窩から発生し, 後頭蓋窩からの発生は極めてまれとされている. 髄膜腫との鑑別診断には, MRIの所見が最も重要である. 髄外海綿状血管腫では, T1強調画像で等信号, T2強調画像では髄液と同程度の高信号を示す. 髄膜腫では, T1強調画像で低・等信号, T2強調画像では等・軽度高信号を示すとされている. ただ鑑別が困難な場合も多い. 今回の症例ではMRIの所見からは髄外海綿状血管腫が疑われたが, 発生頻度や部位などから髄膜腫の可能性も除外できなかった. 髄外海綿状血管腫の理想的な治療は外科的な全摘出である. 中頭蓋窩のものでは放射線療法も考慮されるが, 一方その他の硬膜より発生するものは容易に摘出できるため放射線療法の適応はない. 易出血性であるので手術時には止血操作に特に留意する必要がある. <結語>後頭蓋窩髄外海綿状血管腫の一例を報告した.
ISSN:0468-2513