ポストゲノムテクノロジーと21世紀の医学
21世紀の医療では, 「4つのP」, つまり, Prediction(予測), Preventive(予防), Personalization(個別化), Participation(参加)が医療の核になるであろう. これを実現する一つの手段が, 個人の遺伝情報の検出と利用である. ゲノム科学の出現により, 2003年ヒトゲノムの完成と時を同じくして哺乳類の完全長cDNAデータベースとバンクも充実してきた. このライフサイエンスの金字塔は, ひとえに技術の進歩によるところが大きく, DNA配列登録量も指数関数的に増加してきた. ヒトゲノム完成後は, 技術の進歩そのものも指数関数的, 飛躍的進歩...
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| Published in | THE KITAKANTO MEDICAL JOURNAL Vol. 58; no. 2; p. 261 |
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| Main Author | |
| Format | Journal Article |
| Language | Japanese |
| Published |
北関東医学会
01.05.2008
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| Online Access | Get full text |
| ISSN | 1343-2826 |
Cover
| Summary: | 21世紀の医療では, 「4つのP」, つまり, Prediction(予測), Preventive(予防), Personalization(個別化), Participation(参加)が医療の核になるであろう. これを実現する一つの手段が, 個人の遺伝情報の検出と利用である. ゲノム科学の出現により, 2003年ヒトゲノムの完成と時を同じくして哺乳類の完全長cDNAデータベースとバンクも充実してきた. このライフサイエンスの金字塔は, ひとえに技術の進歩によるところが大きく, DNA配列登録量も指数関数的に増加してきた. ヒトゲノム完成後は, 技術の進歩そのものも指数関数的, 飛躍的進歩が見られ, それと共に, DNA登録塩基配列数は指数関数のさらに二乗というべき勢いで増加している. 2009年には, 1,500を超える生物ゲノムの全長配列が決定され, 配列決定するべき有用生物ゲノムが地球上からなくなる勢いである. 技術進歩においては, 米国NIHが推進している1,000ドルゲノム技術開発プロジェクトの出現により, 個人のゲノム配列を1,000ドル(10万円)で決めることができる時代が到来する. これらは, 一部の例外を除いてすべて米国の技術であり, この技術開発の方向性は, 従来, 個人の遺伝情報の違いを検出する技術(一塩基多型SNP検出技術)の検出対象を全ゲノムの配列(3×109塩基対)に拡大したものと位置づけられ, 情報量という意味で現在のすべてのSNP検出技術に取って代わるものと思われる. 2010年, 1,000ドルゲノム技術が出現すると日本で毎年生まれる新生児全員の全ゲノムを決める予算は, 約1,359億円/年である. 倫理的に考慮するべき側面があるとはいうものの, この情報により予防医学的効果で起きる医療費削減と手遅れにならない健康管理による国民が享受する幸福は考慮するべきところである. 一方, 日本のSNP検出技術開発は, 速さと簡便さを追及した新技術開発がなされている. 我々のグループでは, SMAP(SMart Amplification Process;Smart Amp)法を開発した. これは, 検体採取後30分以内に目的の配列の存在を検出する新技術である. 非対称なプライマーセットや酵素の組み合わせにより, バックグラウンドの増幅を完全に抑制することができるため, SNPやin/delを正確に検出することができる. 実際の臨床現場では, SNPの検出に速さが必要である. この方法を用いれば, 外来受診時に, 尿検査程度の時間でその個人の遺伝情報, 感染症病原体の同定, 最適薬剤による処方ができるようになる. さらに, ガン手術中に抗ガン剤の感受性情報やリンパ節転移の有無などを術者に返すことができる. これらの新手法は, 個人が各自の遺伝情報と健康情報を知る権利を自分で行使する手段となると期待している. |
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| ISSN: | 1343-2826 |