(2)心房細動の電気生理学的・解剖学的基質の解明

心房細動は最も頻度の高い不整脈の1つであり, 脳梗塞などの血栓塞栓症や心不全を合併し, 生活の質や生命予後に著しく影響する重要な不整脈であるため, その機序を解明し予防・治療に結びつけることが重要である. 心房細動の心不全モデルにおいては心房線維化増加による伝導速度の低下, 高血圧モデルにおいては心房圧上昇に伴う心房不応期の低下を認め, それらが心房細動の不規則なリエントリーを開始・維持しやすい“基質”として重要であると認識されている. まず疫学的に心房細動発生率が高い心筋梗塞後心に着目し, どのような機序で心房細動が発生するかを検討した. 雑種犬を用い, 全身麻酔開胸下, 冠動脈前下行枝を結...

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Published in日本医科大学医学会雑誌 Vol. 4; no. 4; p. 227
Main Author 宮内靖史
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本医科大学医学会 01.10.2008
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ISSN1349-8975

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Summary:心房細動は最も頻度の高い不整脈の1つであり, 脳梗塞などの血栓塞栓症や心不全を合併し, 生活の質や生命予後に著しく影響する重要な不整脈であるため, その機序を解明し予防・治療に結びつけることが重要である. 心房細動の心不全モデルにおいては心房線維化増加による伝導速度の低下, 高血圧モデルにおいては心房圧上昇に伴う心房不応期の低下を認め, それらが心房細動の不規則なリエントリーを開始・維持しやすい“基質”として重要であると認識されている. まず疫学的に心房細動発生率が高い心筋梗塞後心に着目し, どのような機序で心房細動が発生するかを検討した. 雑種犬を用い, 全身麻酔開胸下, 冠動脈前下行枝を結紮し心筋梗塞を作成. 慢性期(8週間後)に電気生理学的検査および病理組織学的検討をした. 心筋梗塞後心では心房細動が誘発されやすく, 心房細動中の興奮伝導パターンは心房内での伝導ブロックの多発, 肺静脈領域からの高頻度興奮を認めた. 心房や肺静脈の交感神経密度が有意に高く, その空間的ばらつきも大きかった. 心房各所の活動電位持続時間(MAPD90)および, 先行拡張時間に対するMAPD90の関係を表す曲線(MAPD restitution curve)の最大傾斜が有意に大きく(ブロックをきたしやすい), その空間的ばらつきも大きかった. このように心筋梗塞後心では交感神経の不均一な増生によって一連の電気生理的変化をもたらし心房細動が発生すると考えられた. 一方, 心房細動の開始には心房細動基質が存在した上で開始の“トリガー”が必要である. 人における心房細動のトリガーは肺静脈を起源とする期外収縮であることが多い. なぜ肺静脈にトリガーとなる期外収縮が発生しやすいか解明するため, ラットの心肺を一体として摘出, 大動脈と心肺表面を同時に灌流することにより心房および肺静脈から心筋細胞の活動電位を安定して記録する実験系を確立しin situでの肺静脈心筋細胞の特性を評価した. 正常ラットの心筋細胞活動電位時間を左房および肺静脈近位・中位・遠位より微小電極で記録したところ, 肺静脈中部において活動電位持続時間のrestitution curveの傾きが大きく伝導ブロックが好発すること, イソプロテレノール投与により早期後脱分極による期外収縮が誘発されることが判明し, 正常心においても肺静脈心筋細胞には心房細動開始に必要なトリガーや伝導ブロックを引き起こしやすい特性のあることが示された. また, 上記実験中に心房および肺静脈の電気刺激により局所の副交感神経末端からアセチルコリンが分泌し心筋細胞活動電位時間が著明に短縮し局所のリエントリーが誘発されることを偶然発見した. このように, 心筋梗塞後心における心房細動の機序(不均一な交感神経増生に伴う様々な電気生理学的変化)を解明したことにより, 交感神経遮断薬の有効性を予測し, 後になされた大規模試験でのβ遮断薬有効性の基礎的裏づけとなった. また, 正常心における肺静脈心筋細胞の検討から心房細動のトリガーとなる肺静脈期外収縮の機序を解明し, トリガーの発生予防に有効な薬物(β遮断薬・Ca拮抗薬など)の作用機序を解明した. 現在, 同様な方法により喫煙による心房細動の機序について検討しているが, 高血圧ラットではニコチンの持続投与により心房の線維化が増加し心房細動誘発性の亢進を認め, これらの変化はアンジオテンシンII阻害薬の同時投与で減弱したことからレニン・アンジオテンシン系が関与していると考えられた. 今後は機序をさらに詳細に検討したい. また, 糖尿病・肥満などでも心房細動を発生するが, それらの疾患・病態における発生機序はいまだ不明である. 今後これらの病態においても機序を解明したい.
ISSN:1349-8975