歯科再生医療を目指した人工歯胚からの歯の再生技術の開発

次世代の再生医療に向けて, 疾患や傷害を受けた器官を生体外で人工的に作製した器官と置換する, 臓器置換再生医療を目指した基盤技術開発が期待されている. 私たちは, 細胞操作により単一化細胞から器官原基を再構成し, 生体内で器官発生させることを戦略として, 歯をモデルに研究を進めている. 歯科再生医療の実現を目指して, 歯胚に由来する上皮・間葉組織の単一化細胞から細胞操作により人工的な歯胚を高効率で再構築する基盤技術や口腔内抜歯窩移植モデルを開発した. 私たちが開発した細胞操作による人工的な器官原基法は, 単一化した上皮細胞と間葉細胞をコラーゲンゲル内で高密度に区画化して配置することを特徴とする...

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Published in日本再生歯科医学会誌 Vol. 6; no. 2; p. 119
Main Author 辻孝
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本再生歯科医学会 30.03.2009
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ISSN1348-9615

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Summary:次世代の再生医療に向けて, 疾患や傷害を受けた器官を生体外で人工的に作製した器官と置換する, 臓器置換再生医療を目指した基盤技術開発が期待されている. 私たちは, 細胞操作により単一化細胞から器官原基を再構成し, 生体内で器官発生させることを戦略として, 歯をモデルに研究を進めている. 歯科再生医療の実現を目指して, 歯胚に由来する上皮・間葉組織の単一化細胞から細胞操作により人工的な歯胚を高効率で再構築する基盤技術や口腔内抜歯窩移植モデルを開発した. 私たちが開発した細胞操作による人工的な器官原基法は, 単一化した上皮細胞と間葉細胞をコラーゲンゲル内で高密度に区画化して配置することを特徴とする. 胎齢14.5日のマウス胎児の下顎歯胚から, 酵素処理により調製した上皮細胞と間葉細胞を, 器官原基法により作製した再構成歯胚では, 器官培養, 2日後に上皮・間葉細胞の境界面に複数のエナメルノットが再誘導され, そのそれぞれから歯胚が発生した. 14日後には, 腎皮膜下移植, 器官培養系のいずれにおいてもエナメル質, 象牙質, エナメル芽細胞, 象牙芽細胞, 歯髄を正しい組織配置で有する複数の歯が100%の頻度で発生した. 器官原基法により作製した人工的な歯胚が成体マウスの口腔内で発生するかどうかを検討するために, 生体外で器官培養して発生させた再構成歯胚から単独の歯胚を分離し, 成体マウスの下顎切歯抜歯窩へ移植した. 移植した歯胚は, 正常な歯と同一の組織構造を有して正常な初期発生をすると共に, 14日後には2.0mm, 73日後には4.4mmまで成長した. 再生歯の歯周には歯根膜様組織の形成も認められ, その歯髄には神経が侵入していることが判明した. 本研究の成果により, 単一化細胞から器官原基を作製するための細胞操作技術を確立すると共に, 成体口腔内で人工的な歯胚が正常発生することから, 人工的な歯胚移植による歯科再生医療は実現可能性があることが明らかになった. 歯科再生医療の実現には, 細胞シーズの探索や歯の形態制御, 歯根・歯周組織形成が必要であり, 私たちの開発した人工的な器官原基法がこれらの研究課題を推進するための基盤技術となることが期待される.
ISSN:1348-9615