脳血管障害における和漢薬治療の役割
近年, 脳血管障害の死亡率は減少したものの, 脳血管障害の有病率は増加している. さらに脳血管障害後遺症は, 脳卒中の再発や機能低下の進行により寝たきりや痴呆へ進展することから高齢化社会を迎えた本邦において大きな医療問題となっている. 近年, 発症急性期に対する治療は進展してきているが, 発症予防や後遺症が生じた時期において有効な治療法がないのが現状である. 一方, 当講座では, 厚生労働科学研究・長寿科学総合研究事業において, 脳血管障害に対する和漢薬の効果を検討し, 脳血管性認知症に対する釣藤散の効果などを報告してきた. 今回, 脳梗塞の危険因子である無症候性脳梗塞患者に対する桂枝茯苓丸の...
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| Published in | THE KITAKANTO MEDICAL JOURNAL Vol. 59; no. 2; pp. 176 - 177 |
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| Main Author | |
| Format | Journal Article |
| Language | Japanese |
| Published |
北関東医学会
01.05.2009
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| ISSN | 1343-2826 |
Cover
| Summary: | 近年, 脳血管障害の死亡率は減少したものの, 脳血管障害の有病率は増加している. さらに脳血管障害後遺症は, 脳卒中の再発や機能低下の進行により寝たきりや痴呆へ進展することから高齢化社会を迎えた本邦において大きな医療問題となっている. 近年, 発症急性期に対する治療は進展してきているが, 発症予防や後遺症が生じた時期において有効な治療法がないのが現状である. 一方, 当講座では, 厚生労働科学研究・長寿科学総合研究事業において, 脳血管障害に対する和漢薬の効果を検討し, 脳血管性認知症に対する釣藤散の効果などを報告してきた. 今回, 脳梗塞の危険因子である無症候性脳梗塞患者に対する桂枝茯苓丸の効果と脳血管障害後遺症患者に対する当帰芍薬散の効果を中心に述べる. 無症候性脳梗塞は, 脳梗塞の危険因子であると同時に, 頭重感, めまい感などの非特異的自覚症状やうつ症状を随伴することが報告されている. そこで, 無症候性脳梗塞患者に対する桂枝茯苓丸を主体とした漢方薬の効果を3年間にわたり前向き研究により検討した. 対象は無症候性脳梗塞患者93名で男性24名, 女性69名, 平均年齢70.0±0.8歳である. 桂枝茯苓丸エキスを1年あたり6ヶ月以上内服した51名をSK群, 漢方薬を内服せずに経過を観察した42名をSC群とし, MRI上明らかな無症候性脳梗塞を認めない高齢者44名, 平均年齢70.7±0.7歳をNS群とした. 3群間において, 開始時と3年経過後の改訂版長谷川式痴呆スケール, やる気スコア, うつ状態スコア, 自覚症状を比較したところ, 無症候性脳梗塞患者の精神症状と頭重感に対して桂枝茯苓丸が有効であること示唆された. また, 脳血管後遺症で片麻痺を有する患者を対象に和漢薬の機能低下と自立度低下に及ぼす効果を検討した. 対象は, 長期療養型病床に入院中の要介護度2-4程度の脳血管障害後遺症患者31例を対象とした. 対象を当帰芍薬散投与群(ツムラ当帰芍薬散エキス顆粒を7.5g/日, 1日3回食間投与)16例と漢方薬を投与しない対照群15例の2群に無作為に分けた. 両群に関して投与前ならびに3ヶ月毎に1年間, 脳卒中機能評価(SIAS)と機能的自立度評価(FIM)を実施し, 体重の経過と種々の漢方医学的所見を検討した. その結果, 当帰芍薬散投与群で, SIAS悪化の進展抑制を認め, 各項目別では, 麻痺側の下肢近位筋テストと遠位筋テスト, 腹筋力, 視空間認知機能, 非麻痺側の大腿四頭筋筋力の機能低下の抑制が認められた. FIMも当帰芍薬散投与群で悪化の進展抑制を認めた. 漢方医学的所見の経過では, 当帰芍薬散群で於血と腎虚の改善を認めた. さらに, 難治性の脳血管障害後遺症のため当科を受診した症例を呈示し, 和漢薬が脳血管障害の様々な局面において有効な治療手段であることを紹介する. |
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| ISSN: | 1343-2826 |