市民によるCPRによって救命し得た溺水の1症例

高度なアシドーシスと意識障害を呈した重篤な溺水症例を経験した. 市民によってCPRが施されたことが救命につながったと思われるので報告する. 症例は26歳男性. 平成5年3月8日, 午前8時30分頃, 川の橋の工事中, 乗っていた筏が転覆し, 水中に投げ出された. 漁師により引き上げられ, 居合わせた同僚によりCPRが施行された. 浸水時間数分から10分間程度と推定された. マウスツーマウスによる人工呼吸と心臓マッサージが行われた. 当初, 青ざめていた顔色が徐々に改善していったとのことであった. 約10分後CPRは救急隊員に引きつがれ近医に搬送された. 近医入院時, 意識は深昏睡状態であり,...

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Published in蘇生 Vol. 12; p. 38
Main Authors 蒲地正幸, 相原啓二, 武藤可信, 佐多竹良, 重松昭生
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本蘇生学会 01.04.1994
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ISSN0288-4348

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Summary:高度なアシドーシスと意識障害を呈した重篤な溺水症例を経験した. 市民によってCPRが施されたことが救命につながったと思われるので報告する. 症例は26歳男性. 平成5年3月8日, 午前8時30分頃, 川の橋の工事中, 乗っていた筏が転覆し, 水中に投げ出された. 漁師により引き上げられ, 居合わせた同僚によりCPRが施行された. 浸水時間数分から10分間程度と推定された. マウスツーマウスによる人工呼吸と心臓マッサージが行われた. 当初, 青ざめていた顔色が徐々に改善していったとのことであった. 約10分後CPRは救急隊員に引きつがれ近医に搬送された. 近医入院時, 意識は深昏睡状態であり, 対光反射もほとんど消失していた. 呼吸は無呼吸状態で, 血圧は70/40mmHg, 心拍数は20台/分であった. 体温は34.5度であった. 直ちに気管内挿管され人工呼吸管理とされた. 動脈血液ガス分析にて, pHは測定できなかった. 重炭酸水素ナトリウム, エピネフリン, 硫酸アトロピン, ドパミン, ドブタミン等が投与された. 一時は心室頻拍となったが, その後, 循環動態は安定した. 病院搬送後2時間目には呼名に開眼するようになったが, 呼吸管理目的で当院ICUに転院となった. ICU入室時すでに, 意識は清明となっていた. 投与されていたカテコラミンも徐々に減量していくことができ, 肺の酸素化障害も急速に改善したため, 翌日抜管した. 神経学的にもなんらの後遺症も残さず, ICU入室後3日目に一般病棟に退室することができた. <結論>溺水症例を経験した. 重篤な症例であったにもかかわらず, なんらの後遺症も残さず回復し得たのは, 低体温になっていたことと, 現場での市民によるCPRが奏効したためと考えられた. 一般市民へのCPRの啓蒙の重要性を痛感した.
ISSN:0288-4348