ブピバカインによる脊椎麻酔で心停止(洞停止)を生じた下肢の整形外科手術の2症例

ブピバカインによる脊椎麻酔はその多くの利点により多用されつつある. われわれは最近, この方法による麻酔中に房室結節性補充調律を伴った洞停止を生じた症例を2例経験したので報告する. <症例1>69歳, 女性. 変股症のため股関節全置換術が予定された. 術前状態は高血圧のため降圧剤を使用している以外とくになし. <麻酔および術中経過>患側を上側にした側臥位でL2~3より0.5%ブピバカイン5mlを使用して脊椎麻酔を行った. 麻酔後90分頃, 血圧の低下, 40以下の徐脈, 脈拍の触知不能および心電図で房室結節性調律がみられたが硫酸アトロピン0.25mgの静注で回復した....

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Published in蘇生 Vol. 6; p. 76
Main Authors 重松俊之, 宮尾秀樹, 佐藤公泰, 川添太郎
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本蘇生学会 01.05.1988
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ISSN0288-4348

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Summary:ブピバカインによる脊椎麻酔はその多くの利点により多用されつつある. われわれは最近, この方法による麻酔中に房室結節性補充調律を伴った洞停止を生じた症例を2例経験したので報告する. <症例1>69歳, 女性. 変股症のため股関節全置換術が予定された. 術前状態は高血圧のため降圧剤を使用している以外とくになし. <麻酔および術中経過>患側を上側にした側臥位でL2~3より0.5%ブピバカイン5mlを使用して脊椎麻酔を行った. 麻酔後90分頃, 血圧の低下, 40以下の徐脈, 脈拍の触知不能および心電図で房室結節性調律がみられたが硫酸アトロピン0.25mgの静注で回復した. その後は安定していたが回復室に入室後間もなく再び心拍数が40以下まで減少し, 今度は硫酸アトロピンの静注に反応しなかったためイソプロテレノールの持続点滴(0.02μg/kg/min)を開始し, 循環動態が安定するのに約1時間を要した. <症例2>35歳, 女性. 外側半月板損傷の診断で関節鏡下の再建術が予定された. 術前検査ではとくに異常を認めなかった. <麻酔および術中経過>麻酔はL3~4間で患側を上側にした側臥位で0.5%ブピバカイン4mlを使用して脊椎麻酔を行った. 約2時間後突然心電図上, 数秒間の洞停止を伴う高度の徐脈および房室結節性補充調律, 収縮期血圧80前後の血圧低下が見られた. 硫酸アトロピン0.25mgおよびエフェドリン10mg静注により数分後には心拍数, 血圧ともに回復し, 無事に手術を終えた. 2症例の循環抑制の原因としてまず脊椎麻酔が高位に拡大して心臓枝を含んだ交換神経系が遅発性に抑制されたことが考えられる. 次にブピバカイ自身の循環系に対する抑制作用, 毒性, アレルギー反応も原因となりえる. これに防腐剤であるmethylparabenが相乗効果を生じた可能性も考えられる. したがって本麻酔法を行った場合, 麻酔施行直後はもとより術中術後におよぶ観察が必要と考える.
ISSN:0288-4348