(シンポジウムIV-4)「頭頸部癌術後の摂食・嚥下リハとリスク管理」~看護師の立場から

頭頸部癌術後には, 経口摂取再開後に生じる「誤嚥・窒息」「栄養摂取量の不足」「水分摂取量の不足」等の問題だけでなく, 急性期の「術後合併症予防」を視野に入れたリスク管理が必要である. 術後の摂食・嚥下機能を最良の状態にするためには, 術後急性期に「血流障害による皮弁の壊死」「創部感染」「誤嚥性肺炎」等の合併症を予防して摂食・嚥下リハビリテーションを早期に開始するための条件を整えることが重要である. 頭頸部癌切除後の再建では, 前腕や腹直筋等から採取された皮弁が, 動脈・静脈の血管吻合により切除部位に移植されることが多い. その吻合血管の閉塞は皮弁の壊死に繋がり, 嚥下機能の代償を意図した再建の...

Full description

Saved in:
Bibliographic Details
Published in日本摂食・嚥下リハビリテーション学会雑誌 Vol. 10; no. 3; p. 303
Main Author 浅田美江
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本摂食・嚥下リハビリテーション学会 31.12.2006
Online AccessGet full text
ISSN1343-8441

Cover

More Information
Summary:頭頸部癌術後には, 経口摂取再開後に生じる「誤嚥・窒息」「栄養摂取量の不足」「水分摂取量の不足」等の問題だけでなく, 急性期の「術後合併症予防」を視野に入れたリスク管理が必要である. 術後の摂食・嚥下機能を最良の状態にするためには, 術後急性期に「血流障害による皮弁の壊死」「創部感染」「誤嚥性肺炎」等の合併症を予防して摂食・嚥下リハビリテーションを早期に開始するための条件を整えることが重要である. 頭頸部癌切除後の再建では, 前腕や腹直筋等から採取された皮弁が, 動脈・静脈の血管吻合により切除部位に移植されることが多い. その吻合血管の閉塞は皮弁の壊死に繋がり, 嚥下機能の代償を意図した再建の効果を著しく低下させる. また創部感染・頸部感染の併発は, 創傷治癒時の瘢痕形成と癒着の範囲を拡大し, 嚥下機能のさらなる低下を招く. 術後合併症に伴う創部の安静期間の延長は, 嚥下関連筋の廃用性変化を助長する. 術後急性期のリスク管理として, 看護が皮弁の壊死を予防するには限度がある. しかし, 看護が24時間患者に最も近い位置で観察をする立場にあることから, 皮弁の血流障害を早期に発見することは可能である. また患者が頸部を過度に屈曲・伸展しないよう管理することは, 支持組織のない吻合血管への負荷を防ぎ, 皮弁の血流の安定に繋がる. また創部感染に対しては, 口腔ケアにより創周囲の清潔を図るとともに, 口腔内の発赤, 腫脹, 臭気の変化等の経時的な観察により, 感染徴候の早期発見ができる. さらに誤嚥性肺炎に対しては, 夜間の咳嗽や不眠, 水様性の気道分泌物の頻回の吸引等, 患者の生活場面の観察を通して唾液誤嚥の徴候を早期に発見し, 誤嚥性肺炎のリスクの高い患者を特定することができる. それに対する予防では, 口腔ケアの強化や唾液の咽頭流入を予防するための頸部前屈位の保持, 頻回の吸引による気道クリアランスの管理を行うことが看護の重要な役割となる. 一方術後回復期には, 「誤嚥・窒息」「栄養摂取量の不足」「水分摂取量の不足」に対するリスク管理を行う. 「誤嚥・窒息」を予防するには, 切除部位・範囲と再建の状況, 年齢等の条件から患者の摂食・嚥下機能をアセスメントし, 適切な食事形態の選択と代償的嚥下法の指導を行うこと, 経口摂取状況の観察を行うこと, 誤嚥・窒息の徴候を観察し速やかに対応することが重要である. 看護は患者の生活の援助を通して, これらのすべてに関わることになる. また「栄養摂取量の不足」「水分摂取量の不足」に対しては, 摂食・嚥下機能のアセスメントにより潜在的なリスクのある患者を捉え, 予測的に関わることが重要である. 看護は, 潜在的リスクのある患者の経口摂取量と内容を注意深く観察することにより, 症状が顕在化する前に適切な介入に繋げることを可能とする. このように, 頭頸部癌術後のリスク管理において看護が果たすべき役割は大きい.
ISSN:1343-8441