長期呼吸管理を必要とした妊娠合併症の3例
重症妊娠合併症では, 多量出血による循環動態の変化や凝固系の異常などが症状を修飾するために, 病態の把握と対処に難渋することが多い. 我々は, 妊娠終了後も長期の呼吸管理を必要とした3症例について, 考察を加えて発表する. (症例1)36歳. 妊娠週数不明のまま子宮内容除去術を受け, 止血不可能にて緊急転送された. 全身麻酔下に再子宮内容除去術と腹腔鏡検査施行中, 突然VF, 心停止となり心拍再開に9分を要した. 子宮内容は高度に変性した妊娠生成物で, 止血後挿管のままラボナール療法を3日間施行した後にweaningを開始したが, 呼吸・循環動態とも安定せず早期の呼吸器離脱を断念した. MRI...
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| Published in | 蘇生 Vol. 16; no. 3; p. 240 |
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| Main Authors | , , |
| Format | Journal Article |
| Language | Japanese |
| Published |
日本蘇生学会
01.09.1997
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| ISSN | 0288-4348 |
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| Summary: | 重症妊娠合併症では, 多量出血による循環動態の変化や凝固系の異常などが症状を修飾するために, 病態の把握と対処に難渋することが多い. 我々は, 妊娠終了後も長期の呼吸管理を必要とした3症例について, 考察を加えて発表する. (症例1)36歳. 妊娠週数不明のまま子宮内容除去術を受け, 止血不可能にて緊急転送された. 全身麻酔下に再子宮内容除去術と腹腔鏡検査施行中, 突然VF, 心停止となり心拍再開に9分を要した. 子宮内容は高度に変性した妊娠生成物で, 止血後挿管のままラボナール療法を3日間施行した後にweaningを開始したが, 呼吸・循環動態とも安定せず早期の呼吸器離脱を断念した. MRIでは多発性脳梗塞の所見を認めた. 血小板数の回復を待って術後9日目に気管切開を施行して徐々に呼吸器からの離脱を進め, 28日目に気管カニューレを抜去, 左上下肢に軽度の麻痺を残したが, リハビリ後退院となった. (症例2)40歳. 無月経19週. 2ヶ月前より浮腫が徐々に増悪し視力障害と呼吸困難にて当院受診. 妊娠中毒症状を呈する胞状奇胎と診断され, 全身管理下に奇胎分娩を誘導した. しかし分娩後PO_2 低値のため肺血流シンチを施行し, 右中下葉の広範な肺梗塞所見を認めた. 止血を確認の上tPAを投与したが, 子宮および中心静脈刺入部から大量出血, ショックとなり気管内挿管となった. ショックより回復後DICと全身の改善に努めるも, 血液ガスの改善や全身特に上気道の浮腫の軽減が得られないため, 気管切開を施行した. その後気管からの少量の出血からカニューレ直下に形成された血餅により, 危うく窒息死といった事象にも遭遇したが, 全身の回復とともにweaningが進み, 奇胎分娩後34日で気管カニューレを抜去できた. (症例3)28歳初産婦. 妊娠33週2日. 心窩部痛にて内科受診中, 血圧上昇, 痙攣, 意識低下を来たし頭蓋内出血合併妊娠の診断にて当院へ転送された. CTでは左後頭葉の皮質下出血を認めた. 陣痛様収縮が見られ脳圧上昇を危惧して全身麻酔下に腹式帝王切開を施行し, 無事に児を得て手術は完了した. 術中より出血傾向がみられ, 新鮮凍結血漿, 濃厚血小板等の投与によりDICの改善を図るとともに子癇予防効果も兼ねてラポナール療法を7日間施行. 術後10日以降ようやく血小板数が上昇, その後意識レベルも改善し, 術後16日目に抜管となった. 症例1はいわゆる胎児死亡症候群による多発性脳梗塞, 症例2は胞状奇胎の肺梗塞, 症例3は妊娠中毒症による頭蓋内出血と病態は異なるが, 全例人工呼吸器からの離脱困難な呼吸不全をきたしながら, 回復を得られた症例である. 凝固能の回復および呼吸機能の改善には長期間を要し, 妊娠による影響が示唆された. 結論:妊娠合併症の管理においては, 妊娠が惹起させた循環・凝固系変化の回復に努め, 呼吸管理を行うことが重要である. |
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| ISSN: | 0288-4348 |