術前検査で発見された血液凝固第VIII因子欠乏患者に対し第VIII因子製剤を使用し下顎後退術を施行した1例

今回我々は, 下顎前突症患者の術前検査で血液凝固第VIII因子活性の低下が発見され, 遺伝子組み換え型血液凝固第VIII因子製剤を投与し下顎後退術を行った1例を経験したので報告する. 症例は17歳男性. 9歳頃から下顎前突感に気づき, 近医にて2年間チンキャップによる治療を受けたが中断した. 15歳になり再び気になりだし矯正歯科受診したところ, 外科的矯正が必要と診断され1994年6月4日当科紹介された. 家族歴, 既往歴には特記すべき事項はなかった. 初診時の血液検査では活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)が43.8秒と軽度亢進していたがその他には異常所見は認めなかった. 1995年...

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Published in日本顎変形症学会雑誌 Vol. 6; no. 2; p. 270
Main Authors 安川和夫, 山森郁, 柴田考典, 吉澤信夫
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本顎変形症学会 31.10.1996
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ISSN0916-7048

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Summary:今回我々は, 下顎前突症患者の術前検査で血液凝固第VIII因子活性の低下が発見され, 遺伝子組み換え型血液凝固第VIII因子製剤を投与し下顎後退術を行った1例を経験したので報告する. 症例は17歳男性. 9歳頃から下顎前突感に気づき, 近医にて2年間チンキャップによる治療を受けたが中断した. 15歳になり再び気になりだし矯正歯科受診したところ, 外科的矯正が必要と診断され1994年6月4日当科紹介された. 家族歴, 既往歴には特記すべき事項はなかった. 初診時の血液検査では活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)が43.8秒と軽度亢進していたがその他には異常所見は認めなかった. 1995年7月術前矯正が終了し, 当科入院し下顎後退術を予定した. しかしその際の術前検査でAPTTが49.4秒と亢進し, 出血時間も6分と延長していた. そこで当院血液内科で精査したところ, 第VIII因子活性が39%と低下し, 軽症型血友病Aが疑われた. そこで内科の示唆のもと, 出血予防のため遺伝子組み替え血液凝固第VIII因子製剤(コージネート)を使用し, 下顎後退術を施行した. コージネートは術前, 術中, 術後にそれぞれ1000単位投与し, 600mlの希釈式自己血輸血を行った. 術中出血は688ml, 手術時間は2時間32分であった. 術後は血腫形成, 後出血もみられず経過良好であった. 下顎後退術は完全止血が困難であること, 術中術後の不測の出血が起こり得ること, 術後の血腫形成によって気道閉塞の危険性もあることから, 術前における血液凝固系の精査の必要性を改めて痛感した.
ISSN:0916-7048