静脈経腸栄養のリスクマネジメント

「1. 今時, 栄養失調とは?」 今時, 日本において事件でもないかぎり栄養失調なんてあり得ないはずである. ところが病院には栄養失調患者が存在する. 「2. 栄養失調で何が起こるのか?」 Lean Body Mass(LMB)は, 骨, 筋肉などの脂肪以外の重量を意味する. 筋肉の蛋白質は同化と異化がそれぞれ進行しており, 1日体重kgあたり1~1.5g が分解排泄されている. LMBが健康人の70%程度まで低下すると死に至る. ところで, 低栄養状態はタンパク質の欠乏とエネルギーの欠乏が複合して起こりPEM(protein-energy malnutrition)と呼ばれている. PEMに...

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Published in信州医学雑誌 Vol. 58; no. 1; p. 25
Main Author 東海林徹
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 信州医学会 10.02.2010
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ISSN0037-3826

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Summary:「1. 今時, 栄養失調とは?」 今時, 日本において事件でもないかぎり栄養失調なんてあり得ないはずである. ところが病院には栄養失調患者が存在する. 「2. 栄養失調で何が起こるのか?」 Lean Body Mass(LMB)は, 骨, 筋肉などの脂肪以外の重量を意味する. 筋肉の蛋白質は同化と異化がそれぞれ進行しており, 1日体重kgあたり1~1.5g が分解排泄されている. LMBが健康人の70%程度まで低下すると死に至る. ところで, 低栄養状態はタンパク質の欠乏とエネルギーの欠乏が複合して起こりPEM(protein-energy malnutrition)と呼ばれている. PEMにはタンパク質とエネルギーがともに欠乏しているマラスムスと, エネルギーは保たれているもののタンパク質の著しく欠乏したクワシオコルとに分類される. マラスムスは多くの長期入院で, 消化管機能障害, 神経性食思不振症, 長期経口摂取困難な患者に見られる慢性的飢餓である. このような状態時に急激な栄養の補給は, 急激に代謝が亢進しrefeeding syndromeを引き起こす. 急性栄養障害(急性的飢餓)は重傷感染症や高度侵襲手術などで代謝亢進患者にみられる低栄養状態である. 代謝の亢進に伴いエネルギーの消費が増加して, グルコースの代謝では間に合わず, 脂肪の酸化や蛋白質の代謝によりエネルギーを得ることになる. 急性栄養障害による低蛋白血症は, 臓器不全を進行させ, あるいは感染症を悪化, 合併症を引き起こすことになる. 「3. NSTにおけるリスクマネジメント」 (1)TPNおよびPPN輸液の無菌調製と注射処方箋鑑査 無菌調製はNST薬剤師の業務であるとNSTで認知されている. したがって, 他のNSTスタッフは, 薬剤師だれもが無菌調製をできると思っている. 加えて, 注射処方箋鑑査は, NST薬剤師にかかわらず当然薬剤師の役割である. (2)各栄養製剤を正しく評価する. NSTで経腸栄養あるいは経静脈栄養を選択するにしても, 各経腸栄養製剤を正しく理解しておく必要がある. たとえば, 経腸栄養製剤において, 浸透圧は蛋白質あるいはアミノ酸が大きなファクターであり, 半消化態, 消化態, 成分栄養剤の順に高くなり, 下痢を誘発しやすくなる. (3)栄養療法におけるリスクマネジメント 食物の栄養素も薬剤も腸から吸収されるので, 同時に摂取すると相互作用が起こることは容易に考えられる. 多くの栄養不良患者は経腸栄養剤と薬剤を服用している場合が多く, NSTではこの相互作用のチェックが求められる. (4)輸液ラインの衛生管理 NSTにはカテーテル関連血流感染の防止のために輸液を投与するラインを管理することが課せられている. これらのリスクマネジメントに関するNST薬剤師の役割は, 薬剤管理業務とかなりのところでオーバーラップする. 「4. リスクマネジメントは栄養療法の一環」 従来, NSTを論じる場合には, 栄養療法の面から捉える場合が多い. しかし, リスクの回避が医療の場で重要課題になっている昨今, リスクマネジメントは栄養療法の一環として考える必要がある.
ISSN:0037-3826