出血性ショック患者に対する人工血液の有用性
研究施設:Department of Surgery, Denver Health Medical Center/University of Colorado Health Sciences Center, USA 指導者:Ernest E. Moore 外傷性出血性ショック患者に対し行う病院到着前輸液療法では, これまでcrystalloidが主に使用されてきた. 近年出血性ショック患者に対する初期輸液療法として様々な組成の輸液や投与方法が試みられているが, その有効性に関しては一定の見解を得るに至っていない. 外科的止血が得られる以前に血圧上昇を目的に多量のcrystalloid輸液を行う...
Saved in:
| Published in | 日本医科大学医学会雑誌 Vol. 2; no. 4; pp. 248 - 249 |
|---|---|
| Main Author | |
| Format | Journal Article |
| Language | Japanese |
| Published |
日本医科大学医学会
01.10.2006
|
| Online Access | Get full text |
| ISSN | 1349-8975 |
Cover
| Summary: | 研究施設:Department of Surgery, Denver Health Medical Center/University of Colorado Health Sciences Center, USA 指導者:Ernest E. Moore 外傷性出血性ショック患者に対し行う病院到着前輸液療法では, これまでcrystalloidが主に使用されてきた. 近年出血性ショック患者に対する初期輸液療法として様々な組成の輸液や投与方法が試みられているが, その有効性に関しては一定の見解を得るに至っていない. 外科的止血が得られる以前に血圧上昇を目的に多量のcrystalloid輸液を行うことは, 再出血を助長する可能性があるのみならず, 血液凝固因子の希釈にもつながる. 一方, 初期輸液を制限した場合にはショック状態は遷延し, 組織低灌流の結果として生じる過度の酸素負債は多臓器不全発生の増加に深く関与している. 酸素運搬能の早期改善という観点から, 外傷現場での保存血液投与も考えられるが, 血液型適合試験の必要性および保存期間の問題から現実的選択肢とはいえない. 現在アメリカにてPhaseIII臨床試験段階である人工血液(PolyHeme)の出現は, 酸素運搬能を持ちかつ循環血液量を増加することのできる初期輸液としてこれまでのジレンマを払拭する可能性を持つ. さらに血液型適合の必要がなく, 保存期間も長いといった特徴も併せ持つことから, クリスタロイドに換わる外傷現場での初期輸液として, その有効性が期待されている. 人工血液は出血性ショック患者に対する初期輸液として有効か?この疑問に答えるべく, 出血性ショックに対する初期輸液として人工血液, crystalloid, および自己血液を使用した場合の蘇生効果を, ラットモデルを用いて検討した. その結果, 人工血液群ではcrystalloid, 自己血液群に比べ, 早期より組織内酸素飽和度を上昇させ, 酸素負債を早急に改善するとの結果が得られた. さらに人工血液群では他群に比べ有意にその後に生じる肺障害を軽減することも示された. これまでの研究により, 外傷性出血性ショック患者に対し保存血液を投与した場合, 輸血量はその後の多臓器不全の発生と有意な相関をもつことが示されている. 特に受傷から12時間以内に6単位(米国単位)以上の保存血輸血を行うことが, 多臓器不全発生の有意なリスク因子になるとされている. その機序としては, いまだ明確な答えは得られていないものの, 保存血液, 特に保存期間の長い血液は, 好中球および血管内皮細胞を活性化し, サイトカイン産生を引き起こすことが示されていることより, 血液保存期間中に輸血バック内で産生される何らかの生理活性物質が免疫細胞を活性化し, その後の臓器障害を引き起こすと考えられる. 一方, 人工血液投与群では, 保存血液投与により生じるこれらの反応は抑制されることが示されている, 同様の結果はin vitro実験系でも確認されており, 人工血液自体に好中球, 血管内皮細胞活性化, およびサイトカイン産生を抑制する免疫保護作用があることが示唆される. その機序解明については, 今後さらなる研究が必要である. これらのデーターを基に, 現在アメリカでは重症外傷患者に対する人工血液の早期投与の有効性を検証するPhase III臨床試験が行われており, パラメディックが人工血液を携行し, 患者に対し外傷現場からの投与を開始している. すでに予定症例数のデーター収集を終えており, その結果の公表が待たれるところである. |
|---|---|
| ISSN: | 1349-8975 |