幼児の下顎に発生した線維腫症の1例

我々は, 下顎歯槽部に生じた小児線維腫症の1例を経験したので, CT像と病理組織像との対比および文献的考察をおこなった. 線維腫症は, 線維芽細胞の腫瘍性増殖を特徴とし, 被膜形成が無く, 局所侵襲性があり, しばしば局所再発する. 病理組織学的には, 良性腫瘍と悪性腫瘍の境界病変と考えられているが, 転移はない. EnzingerとWeissの線維腫症の分類では, 骨格筋あるいは近接する筋膜・腱膜・骨膜などに充実性のmassとして生じ, 急速に発育し, 侵襲性が強い線維腫症を深在性線維腫症と定義している. それが, 子供に生じたものを小児線維腫症と定義し, その多くは頭頸部, 肩, 上腕,...

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Published in歯科放射線 Vol. 38; no. 3; p. 214
Main Authors 檜木あゆみ, 小林富貴子, 小山純市, 加藤徳紀, 林孝文, 伊藤寿介, 平周三, 朔敬
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本歯科放射線学会 30.09.1998
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ISSN0389-9705

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Summary:我々は, 下顎歯槽部に生じた小児線維腫症の1例を経験したので, CT像と病理組織像との対比および文献的考察をおこなった. 線維腫症は, 線維芽細胞の腫瘍性増殖を特徴とし, 被膜形成が無く, 局所侵襲性があり, しばしば局所再発する. 病理組織学的には, 良性腫瘍と悪性腫瘍の境界病変と考えられているが, 転移はない. EnzingerとWeissの線維腫症の分類では, 骨格筋あるいは近接する筋膜・腱膜・骨膜などに充実性のmassとして生じ, 急速に発育し, 侵襲性が強い線維腫症を深在性線維腫症と定義している. それが, 子供に生じたものを小児線維腫症と定義し, その多くは頭頸部, 肩, 上腕, 大腿部の骨格筋に生じるとしている. 症例は, 7歳の女子, 主訴は, 左側下顎大臼歯部歯肉の無痛性腫脹で, 受診2日前に本人が気づいた. 口腔内所見では, 左側下顎第一大臼歯歯槽部舌側から遠心にかけて, 境界明瞭な腫瘤が認められた. CT所見では, 病変は下顎臼歯部歯槽頂部から上外方に膨隆し, 下方は歯槽骨内に侵展しているSoft tissue massであった. irregularな骨吸収および断裂像という悪性腫瘍を示唆する所見と, 骨膨隆や骨吸収辺縁の部分的な明瞭さ, 周囲軟組織に浸潤像がないという良性腫瘍を示唆する所見が認められた. これらの所見から, 我々は, 悪性腫瘍と診断したが, 悪性度は低いと考えた. 画像所見から, 腫瘍の発生部位は, 歯槽頂付近と推測した. 病理組織像では, 歯槽頂を中心に外向性に腫瘍が増大していたことから歯槽頂部から発生したと考えられた. しかし, 第一大臼歯の歯髄内に象牙質が反応性に形成されていたことから, 第一大臼歯の歯根周囲から発生した可能性も否定できなかった. 小児線維腫症が歯槽部に生じ, 下顎骨に進展を伴った報告例は4例で, 8歳以下では1例のみであった. 今回, 我々が, 経験した症例は7歳であり, 比較的稀な症例であった.
ISSN:0389-9705