高度の貧血を呈した出血性胃潰瘍患者の麻酔経験

出血性胃潰瘍により緊急手術となり, 血液準備の不足からやむをえず高度の血液希釈となった患者の麻酔を経験した. <症例>58歳, 男性. 胃潰瘍からの出血のため内科的治療をされていたが, 大量出血があり, 出血性ショックの状態を呈したので緊急手術となった. 身体所見:せん妄状態, 心房細動を伴い, 心拍数190~200/分, 収縮期血圧40mmHgであった. 口腔内には相当量の新鮮血が存在し出血性ショックの状態であった. 麻酔経過:輸液・輸血およびドパミン5μg/kg/minの投与を行いながら手術室に入室, 口腔内の新鮮血のため意識下挿管を試みたが, せん妄状態により開口困難であった...

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Published in蘇生 Vol. 12; pp. 48 - 49
Main Authors 竹崎亨, 川口稜示, 中尾三和子, 中谷圭男, 仁井内浩, 小林規子, 花木千尋
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本蘇生学会 01.04.1994
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ISSN0288-4348

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Summary:出血性胃潰瘍により緊急手術となり, 血液準備の不足からやむをえず高度の血液希釈となった患者の麻酔を経験した. <症例>58歳, 男性. 胃潰瘍からの出血のため内科的治療をされていたが, 大量出血があり, 出血性ショックの状態を呈したので緊急手術となった. 身体所見:せん妄状態, 心房細動を伴い, 心拍数190~200/分, 収縮期血圧40mmHgであった. 口腔内には相当量の新鮮血が存在し出血性ショックの状態であった. 麻酔経過:輸液・輸血およびドパミン5μg/kg/minの投与を行いながら手術室に入室, 口腔内の新鮮血のため意識下挿管を試みたが, せん妄状態により開口困難であったため, ペンタゾシン30mgを静注の後, 気管内挿管を行った. この後フェンタニール, ミダゾラムを投与, ベクロニウムを適宜追加し, 酸素・笑気・イソフルランにより維持した. ショック状態に対しては, メチルプレドニゾロン, ウリナスタチンを投与し, 7%重炭酸Naを点滴静注した. 入室時には交差試験の済んだ血液はすべて使用されており, 新たに血液が到着するまでの1時間を乳酸リンゲル液とアルブミン製剤で対処した. 濃厚赤血球液3単位輸血後にHb4.2g/dl・Hct12.2%であり, 入室時のそれは4g/dl以下, 10%以下と推定された. 急速輸血により循環動態は改善され, 術後経過も良好であった. <考察>血液希釈に対し生体は, 心拍出量を増加させて末梢への酸素供給を代償する. しかし, 高折らはイヌを用いた実験でHct値10/%近傍で心拍出量の増加が停止し, 血圧低下, 右室拡張期圧の上昇を認め, 7~8%で徐脈を呈して死にいたるとしている. 一方, 血液希釈による止血機能の低下のため酸素供給能に予備力がある段階でも血液希釈の限界が訪れることが考えられた.
ISSN:0288-4348