矢崎論文に対するEditorial Comment
心房停止は一般に心房筋の電気的, 機械的活動が消失した状態と定義される. 空間的な側面からは部分的心房停止と全心房停止に分類されるが, 両者の鑑別には詳細な心房内マッピングが必要である. また時間的経過からは一過性のものと持続性のものに分類される. 全心房停止は薬剤などによりひき起こされるが, 通常一過性である. 一方, 部分的心房停止は持続性のものが多く, その原因は僧帽弁疾患, 慢性心筋炎, 虚血性心疾患や拡張型心筋症など多彩である. これらの原因による慢性の心房負荷は, 心房筋の変性, 線維化をもたらし, 電位消失および機械的収縮力の欠如をひき起こす. 理由は必ずしも明らかではないが,...
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          | Published in | 心臓 Vol. 38; no. 9; p. 930 | 
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| Main Author | |
| Format | Journal Article | 
| Language | Japanese | 
| Published | 
            日本心臓財団
    
        15.09.2006
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| ISSN | 0586-4488 | 
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| Summary: | 心房停止は一般に心房筋の電気的, 機械的活動が消失した状態と定義される. 空間的な側面からは部分的心房停止と全心房停止に分類されるが, 両者の鑑別には詳細な心房内マッピングが必要である. また時間的経過からは一過性のものと持続性のものに分類される. 全心房停止は薬剤などによりひき起こされるが, 通常一過性である. 一方, 部分的心房停止は持続性のものが多く, その原因は僧帽弁疾患, 慢性心筋炎, 虚血性心疾患や拡張型心筋症など多彩である. これらの原因による慢性の心房負荷は, 心房筋の変性, 線維化をもたらし, 電位消失および機械的収縮力の欠如をひき起こす. 理由は必ずしも明らかではないが, 通常, 部分的心房停止の進展様式は右房高位から電位が減弱, 消失し, 下位に向かい病変が進行するという特徴がある. そのため三尖弁近傍や左房側の電位は比較的保たれることが多い1)2). 矢崎論文の症例は心房停止の原因として, 先行する上気道感染を認めたこと, 左室心筋生検で間質の線維化とリンパ球浸潤を認めたことなどから急性心筋炎に伴うものと推測しており, 病態的には心房筋が特異的に障害されたとしている. このように心筋炎などではしばしば心房と心室間で炎症の程度に差がみられ心房筋優位の障害を呈することがある. 以前, われわれは心筋炎に伴い多彩な心房不整脈を呈した部分的心房停止の症例を報告した. その例では心房内マッピングにより記録された心房電位の大きさは各部位で異なっており, 病理組織学的に確認された心房筋の残存量と比例していた. とくに三尖弁周囲の電位と左房電位は比較的大きく心房筋も残存していた3). 矢崎論文の症例でもやはり三尖弁周囲の電位は残存しており, そこからのペーシングが可能であったということは興味深い. 心房停止の症例では, 房室接合部以下の補充調律または部分的に残存する心房筋からの異所性心房調律を伴うことが多く, 徐脈による脳虚血症状や心不全症状が出現するため一般的には心室ペーシングの適応となる. しかし, 矢崎論文の症例のごとくある程度心房筋が残存していれば, 心房ペーシングも可能である. この例では, 心房停止が一過性であり, 経過とともに心房電位も回復していることから, おそらく機械的な心房収縮も回復したことが心不全の改善に寄与したものと考えられる. 一方, 慢性進行性の基礎疾患に起因する心房停止では, 一時的に残存心房筋からのペーシングが可能でも, 将来的に心房電位が減弱し, 持続性心房停止へと進展し電気的, 機械的に心房機能が失われることも予想される. さらに心房筋のみならず, 房室伝導障害, 心室内伝導障害および左室機能障害が比較的急速に進行する例もあるため注意深い経過観察が必要である. 文献 1)Levy S, Pouget B, Bemurat M, et al:Partial atrial electrical standstill?:Report of three cases and review of clinical and electrophysiological features. Eur Heart J 1980;1:107-116 2)Nakazato Y, Nakata Y, Hisaoka T, et al:Clinical and electrophysiological characteristics of atrial standstill. Pacing Clin Electrophysiol 1995;18:1244-1254 3)中里祐二, 中田八洲郎, 戸叶隆司, ほか:心筋炎後に多彩な心房性不整脈を呈した1例における電気生理学的および病理学的検討. 臨床心臓電気生理1992;15:55-61 | 
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| ISSN: | 0586-4488 |