小児外科の現状と今後の展望
小児外科学は, 脳脊髄, 眼, 耳鼻咽喉, 心大血管, 骨などを除く小児の外科的疾患を広く扱う学問である. 一般に小児期は新生児期, 乳児期, 幼児期, 学童期, 思春期の5つに区分され, 各時期にはそれぞれ特徴的な外科的疾患が発生する. 新生児期には消化管や体壁の形成異常など緊急手術を要する先天奇形が多く, 学童期, 思春期と年長になるに従って小児外科疾患の特殊性は少なくなり成人と共通する疾患が多くなってくる. 今回, 小児外科の象徴的分野である新生児外科医療と, 最近急激に普及しつつある小児内視鏡下手術を中心にそれぞれの現状と今後の展望について述べてみたい. 日本小児外科学会では1964年...
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| Published in | 小児口腔外科 Vol. 15; no. 1; p. 67 |
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| Main Author | |
| Format | Journal Article |
| Language | Japanese |
| Published |
日本小児口腔外科学会
25.06.2005
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| ISSN | 0917-5261 |
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| Summary: | 小児外科学は, 脳脊髄, 眼, 耳鼻咽喉, 心大血管, 骨などを除く小児の外科的疾患を広く扱う学問である. 一般に小児期は新生児期, 乳児期, 幼児期, 学童期, 思春期の5つに区分され, 各時期にはそれぞれ特徴的な外科的疾患が発生する. 新生児期には消化管や体壁の形成異常など緊急手術を要する先天奇形が多く, 学童期, 思春期と年長になるに従って小児外科疾患の特殊性は少なくなり成人と共通する疾患が多くなってくる. 今回, 小児外科の象徴的分野である新生児外科医療と, 最近急激に普及しつつある小児内視鏡下手術を中心にそれぞれの現状と今後の展望について述べてみたい. 日本小児外科学会では1964年から5年ごとに新生児外科症例を集計している. それによると, 1973年を境に出生数が年々減少しているにもかかわらず新生児外科症例は調査毎に大幅に増加している. また, 疾患の出生体重をみても2500g以下のリスクの高い低出生体重児の占める割合が1~2%ずつ増加している. 当科においても低出生体重児が増加しているが, 中でも最近の2~3年では過去に経験しなかった1000g未満の超低出生体重児の手術が行われるようになった. その原因の一つに診断技術の向上があげられている. すなわち, 産科領域の超音波診断の進歩により一部の外科的疾患の胎児診断が可能となり, これまでは死産あるいは出生直後死亡するような重症例が専門施設に母体搬送され, 治療の対象となるためと考えられている, ちなみに, 小児外科診療科が発足した1997年を境に, その前後の期間で新生児外科症例数に対する出生前診断例数の割合をみると, 214例中18例(8.4%)から128例中40例(31.5%)と大幅に増加している. 出生前診断例は関係各科の周到な計画のもとに治療されるため一部の疾患では治療成績は向上したが, 全体的には現時点では出生前診断は必ずしも治療成績の向上には貢献していない. そこで, 胎児期に診断されても出生後の治療では救命困難な症例や不可逆的障害が生じる症例に対しては胎児治療が考慮されるようになった. 胎児治療には倫理的な問題点も山積しているが, 出生後の治療に限界がある以上, 伴うリスクを慎重に検討しながら胎児治療を模索することは当然と思われる. 現在, 米国の胎児治療センターでは先天性横隔膜ヘルニアを中心に特定の疾患に対し精力的に胎児治療が行われている. 一方, 本邦においてもごく最近CCAMに対する胎児肺切除術と気管閉塞症に対するEXIT法が各1例報告されるようになった. 以上のように, 最近の新生児外科は出生前診断の導入によって周産期外科に大きく転換した. 今後この分野での研究, 臨床応用が益々発展していくものと思われる. しかし, 救命不可能な合併奇形のため診断されて治療しないselective nontreatmentの患児の扱い, 胎児の人権と両親のプライバシーの問題, 胎児治療の適応症例の識別など, 将来に向けて解決すべき問題点も多い. さて, 小児外科手術は救命第一の時代からQOLを考慮する手術が求められるようになった. その一つに内視鏡下手術がある. 胆嚢摘出術に対して導入された腹腔鏡下手術は短期間のうちに成人外科領域で普及し, その適応疾患が急激に拡大されてきた. 内視鏡下手術の登場は外科臨床においてまさに画期的な出来事であり, 今や先端技術の外科応用に向けた一つのステップとなっている. 小児外科領域においても成人外科を踏襲する形ではじめられ, 現在当科でも可能な限り内視鏡下手を術採用している. 内視鏡下手術の利点は, 通常の手術に比し長時間を要するにもかかわらず術後の回復が早く, 加えて手術瘢痕が小さく優れた美容効果を有していることである. 欠点としては, 手術操作は限られた視野と鉗子の動きのなかで行われるため術者の負担が多く, 現状では開腹, 開胸手術のすべてに取って代わるまでにはいたっていないことである. 特に, 小児においては体格が小さいため鉗子のworking spaceが極端に狭くなること, 疾患の種類は多いが成人における胆石症のように技術を習得する日常疾患が少ないことなどの問題点がある. そのために技術を習得するためのトレーニングシステムの工夫や, それぞれの疾患と各年齢に即応した手術支援器具と新しい手術手技の開発も必要と考えられる. いずれにしても, 内視鏡下手術の特性である術者の手となる鉗子の「自由度の制限」と「触覚の欠如」などの問題点を克服できれば, これまで困難とされていた新生児外科手術への応用も期待できるものと思われる. |
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| ISSN: | 0917-5261 |