患者苦痛度アンケート調査からみた安全かつ苦痛の少ない気管支鏡検査実施への提言

背景.肺がんや呼吸器疾患の確定診断に極めて有用である気管支鏡検査件数が最近少しずつ減少してきている.これは患者に「気管支鏡検査は苦しく,できればやりたくない」との認識が根底にある可能性がある.本学会総務委員会において,気管支鏡検査の社会的評価に関して話し合われ,「患者さんの苦痛感の少なく,かつより侵襲の少ない気管支鏡検査の実施について検討することが急務である」との提言があった.目的.気管支鏡ガイドライン策定委員会を立ち上げ,本学会安全対策委員会が作成した「手引き書」を基に,患者の苦痛度アンケート用紙を用いた調査を行い,患者の視点を重視した気管支鏡手技のガイドラインを作成することを目的とした.対...

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Published inThe Journal of the Japan Society for Respiratory Endoscopy Vol. 33; no. 1; pp. 3 - 11
Main Authors 池田, 徳彦, 丹羽, 宏, 中島, 崇裕, 藤澤, 武彦, 金子, 教宏, 渋谷, 潔, 大崎, 能伸, 大森, 一光, 藤野, 昇三
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 特定非営利活動法人 日本呼吸器内視鏡学会 2011
日本呼吸器内視鏡学会
The Japan Society for Respiratory Endoscopy
Subjects
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ISSN0287-2137
2186-0149
DOI10.18907/jjsre.33.1_3

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Summary:背景.肺がんや呼吸器疾患の確定診断に極めて有用である気管支鏡検査件数が最近少しずつ減少してきている.これは患者に「気管支鏡検査は苦しく,できればやりたくない」との認識が根底にある可能性がある.本学会総務委員会において,気管支鏡検査の社会的評価に関して話し合われ,「患者さんの苦痛感の少なく,かつより侵襲の少ない気管支鏡検査の実施について検討することが急務である」との提言があった.目的.気管支鏡ガイドライン策定委員会を立ち上げ,本学会安全対策委員会が作成した「手引き書」を基に,患者の苦痛度アンケート用紙を用いた調査を行い,患者の視点を重視した気管支鏡手技のガイドラインを作成することを目的とした.対象および方法.患者記入用と医師記入用の2枚をセットとし解析した.患者記入用の内容は(1)検査前におこなった「のど」のますいは苦しかったですか,(2)検査中のことを覚えていますか,(3)気管支鏡挿入中は苦しかったですか,(4)検査中に痛みはありましたか,(5)検査後の気分はいかがでしたか,(6)検査時間についてどう思われましたか,(7)気管支鏡検査を再度受けてもよいと思われますか,の7項目とした.(2)は「はい」,「いいえ」とし,その他は全て5段階評価とした.医師記入用の内容としては検査日,検査医,気管支鏡経験年数,各種患者データ,検査目的,前処置,咽頭麻酔,セデーション,使用機器,挿入経路,検査時間,咳の状況,とした.患者データと医師記載データが同一症例であった34施設,1094例を検索対象とした.成績.患者苦痛度は前投薬ではアタラックスP^[○!R]のみの場合,最も検査中苦しく感じており,また咽頭麻酔についても苦しいと感じているが,その中ではネブライザー+ジャクソンスプレイが最も苦しくなかった.挿入経路については,経鼻と経口による気管支鏡検査の苦しさに有意差は認められなかった.気管支鏡実施医と検査中の苦しさについては専門医,指導医による検査が非専門医より有意に苦しくなかった.鎮静剤の有無と検査中の記憶や苦しさなどについて比較すると,推計学的に有意に鎮静剤を投与した方が,検査中の記憶の程度や苦しさは少なく,再度検査を受けても良いと考えている.鎮静剤の種類で検討すると,ドルミカム^[○!R]による鎮静剤の投与を受けた方がオピスタン^[○!R]に比較して,検査中の記憶や苦しさが少なく,痛みも少なく,検査後の気分も良いと感じていた.しかし,オピスタン^[○!R]投与がドルミカム^[○!R]投与より推計学的に有意に咳を呈した症例が少なかった.検査時間は10分以内に比べて20分を超えると苦しいと感じ,検査後の気分も悪く,咳も多く,再度検査は受けたくないと感じていた.重回帰分析では「気管支鏡検査を再度受けてもよいと思われますか」の従属変数に対して,検査中の記憶の有無,検査中の痛みは有意ではなかったが,咽頭麻酔の苦しさ,気管支鏡挿入中の苦しさ,検査後の気分,検査時間の4因子は有意な独立変数であった.提言.以上の成績から,気管支鏡検査は「苦しく,2度と受けたくない」という既成概念を打破し,安全かつ苦痛の少ない検査を実施していくために,以下の5点を提言し,早急に改善を図るべきである.(1)咽頭麻酔はネブライザー+ジャクソンスプレイを選択するべきである,(2)検査中はドルミカム^[○!R]またはオピスタン^[○!R]などの鎮静剤を投与すべきである,(3)咳の強い症例にはオピスタン^[○!R]投与が有効である,(4)気管支鏡検査は本学会認定の気管支鏡専門医が行うか,または専門医の指導のもとに施行すべきである,(5)さらなる検査手技の向上に努め,検査時間の短縮を図るべきである.
ISSN:0287-2137
2186-0149
DOI:10.18907/jjsre.33.1_3