医療における意思決定の古今東西

背景: 医師は日常の診療において,多くの選択肢の中から,治療法であれ診断法であれ最適と思われる方法を選ばなければならない.いずれを選ぶかによって,患者に重大な結果を招く恐れがある.その上,医師が適切とみて選んだ方法が,患者の期待した結果に繋がらないこともある.それでは,どのようにして正しい方法を選ぶべきだろうか.特に患者中心の医療の時代においては,患者や有識者を含めて広い視点から意思決定を再評価する必要がある.方法: 歴史的にみて医療における意思決定に直接または間接的に関与したと思える東西の識者の教えを取り上げ,その視点から意思決定を再評価した.その教えとはヒポクラテス(Hippocrates...

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Published in天理医学紀要 Vol. 20; no. 1; pp. 19 - 25
Main Author 前谷, 俊三
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 公益財団法人 天理よろづ相談所 医学研究所 25.12.2017
天理よろづ相談所医学研究所
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ISSN1344-1817
2187-2244
DOI10.12936/tenrikiyo.20-009

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Summary:背景: 医師は日常の診療において,多くの選択肢の中から,治療法であれ診断法であれ最適と思われる方法を選ばなければならない.いずれを選ぶかによって,患者に重大な結果を招く恐れがある.その上,医師が適切とみて選んだ方法が,患者の期待した結果に繋がらないこともある.それでは,どのようにして正しい方法を選ぶべきだろうか.特に患者中心の医療の時代においては,患者や有識者を含めて広い視点から意思決定を再評価する必要がある.方法: 歴史的にみて医療における意思決定に直接または間接的に関与したと思える東西の識者の教えを取り上げ,その視点から意思決定を再評価した.その教えとはヒポクラテス(Hippocrates)の金言,僧源信の往生要集,山脇東洋の蔵志,Claude Bernardの実験医学序説である.更に一米国外科教授の見解を披露した.結果: 既に2千年以上前からヒポクラテス学派は,医療における意思決定の難しさ,経験に頼ることの危うさ,好機の逃しやすさを説いていた.平安時代の僧源信は,生を死と同様に四苦の一つに数え,生の価値観を大きく変えた.山脇東洋は1754年日本で最初の人体解剖から,理論を廃して実物から学ぶべきことを強調し,これがClaude Bernardにより体系化され,医療におけるevidenceの重要性を示した. 結論: 人生は苦痛に満ちていると考える者は,必ずしも源信やその信奉者に留まらず,古今東西にみられる.更に生存期間を引き延ばす治療が,必ずしも患者の満足感を増やすとは限らず,むしろ突然死によって終末期を短縮して欲しいと願う患者もいる.その結果,医師には望ましいと思われる治療法が,患者にとって逆効果となる場合もあり,必ずしも患者の願いをかなえるものではない.個々の患者のQOL や生存モデルの中のどの評価尺度を使うべきか,医師は今後,患者中心の医療において意思決定の方法を更に広い視点から再評価する必要がある.
ISSN:1344-1817
2187-2244
DOI:10.12936/tenrikiyo.20-009