上本論文に対するEditorial Comment

AT IIIは432のアミノ酸より構成される分子量58,000の1本鎖の糖たんぱく質である. 主として肝臓で合成され, 血漿中に約15~27mg/dLの濃度で存在する. AT IIIはトロンビン, 活性化第X, IX, XI, XII因子などの血液凝固セリンプロテアーゼに対して阻害作用を示す. AT IIIの先天的な欠損により抗血栓作用が低下し血栓症が多発することが知られる. 1965年にEgebergにより欠乏家系が報告されて以降, AT IIIの分子異常症においても欠乏症と同様に血栓症が多発することが明らかにされた, このような先天的な要因により血栓症が発症しやすい病態はthromboph...

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Published inShinzo Vol. 51; no. 4; p. 424
Main Author 桂木, 真司
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 公益財団法人 日本心臓財団 15.04.2019
日本心臓財団・日本循環器学会
Japan Heart Foundation
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ISSN0586-4488
2186-3016
DOI10.11281/shinzo.51.424

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Summary:AT IIIは432のアミノ酸より構成される分子量58,000の1本鎖の糖たんぱく質である. 主として肝臓で合成され, 血漿中に約15~27mg/dLの濃度で存在する. AT IIIはトロンビン, 活性化第X, IX, XI, XII因子などの血液凝固セリンプロテアーゼに対して阻害作用を示す. AT IIIの先天的な欠損により抗血栓作用が低下し血栓症が多発することが知られる. 1965年にEgebergにより欠乏家系が報告されて以降, AT IIIの分子異常症においても欠乏症と同様に血栓症が多発することが明らかにされた, このような先天的な要因により血栓症が発症しやすい病態はthrombophiliaとして知られる. 日本人における先天性AT III欠損症の発症頻度は0.18%と推測され, 欧米における頻度0.02~0.17%とほぼ同率である. Watanabeらは妊娠10週の妊婦に左鎖骨下静脈と右大腿静脈に血栓症を認め, AT III活性40%, AT III抗原18.8mg/dLと低下し妊娠中は未分画ヘパリンで, 帝王切開前にAT III値が継続して低かったためにAT IIIを投与し血栓症の再発なく経過した症例を報告した. 遺伝学的検査で先天性AT III欠損症であることが証明された1). AT III欠損患者の80~90%においては, 50~60歳までに血栓症が発症すると報告される. 血栓症の約70%は外傷, 手術, 妊娠, 経口避妊薬の内服など, 通常では血栓症発症に至らないような軽微な誘因によって引き起こされると考えられる. 本症例は血栓症を契機に診断された先天性AT III欠損症の妊婦に対して妊娠中, 産褥期にAT IIIを適宜補充しながら無事周産期を見事に乗り切った症例である. 日常臨床でなかなか出会わないケースであり, 特に分娩時は出血も伴い, さらに凝固異常が出現しやすい時期で十分な補充が必要であり, 慎重な管理を要する. 「文献」1) Watanabe C, Ichiba T, Naito H : Left subclavian and right femoral vein thrombosis in a pregnant patient with antithrombin deficiency. J Cardiol Cases 2018 ; 18 : 149-151
ISSN:0586-4488
2186-3016
DOI:10.11281/shinzo.51.424