産婦人科臨床における遺伝性乳癌卵巣癌の位置づけ

婦人科領域においても遺伝性腫瘍が存在する.遺伝性乳癌卵巣癌(hereditary breast and ovarian cancer: HBOC)にともなう卵巣癌ではBRCA1 またはBRCA2(BRCA1/2)がその責任遺伝子として知られており,BRCA1 の変異遺伝子を有する場合,70 歳までに卵巣癌発症の確率が40%との報告もある.またLynch 症候群家系に子宮体癌が高率に発生することが知られており,近年ではその診断基準に子宮体癌も組み入れられるようになった.さらにPeutz-Jeghers 症候群例において子宮頸部腺癌(悪性腺腫)を合併することが以前より知られている.ところで卵巣はが...

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Published in家族性腫瘍 Vol. 11; no. 2; pp. 48 - 51
Main Authors 鶴田, 智彦, 武田, 祐子, 矢崎, 久妙子, 平沢, 晃, 青木, 大輔, 三須, 久美子, 菅野, 康吉, 阪埜, 浩司, 進, 伸幸
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本家族性腫瘍学会 2011
一般社団法人日本遺伝性腫瘍学会
The Japanese Society for Hereditary Tumors
Subjects
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ISSN1346-1052
2189-6674
DOI10.18976/jsft.11.2_48

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Summary:婦人科領域においても遺伝性腫瘍が存在する.遺伝性乳癌卵巣癌(hereditary breast and ovarian cancer: HBOC)にともなう卵巣癌ではBRCA1 またはBRCA2(BRCA1/2)がその責任遺伝子として知られており,BRCA1 の変異遺伝子を有する場合,70 歳までに卵巣癌発症の確率が40%との報告もある.またLynch 症候群家系に子宮体癌が高率に発生することが知られており,近年ではその診断基準に子宮体癌も組み入れられるようになった.さらにPeutz-Jeghers 症候群例において子宮頸部腺癌(悪性腺腫)を合併することが以前より知られている.ところで卵巣はがん検診の対象臓器となっておらず,悪性の場合は自覚症状発現時に病変がすでに進行していることが多い.また卵巣腫瘍は多くの場合術前に良悪性の診断をすることが困難である.そこでBRCA1/2 遺伝子変異保持例に対しては適切なサーベイランスの手法が存在しないことから,がん一次予防法としてリスク低減卵管卵巣摘出術(Risk-Reducing Salpingo-Oophorectomy: RRSO)が現在のところ最も確実性の高い卵巣癌予防策であるとみなされている.しかしながらRRSO 施行後には急速なエストロゲンによる卵巣欠落症状を来すことがあり,さらに長期的には脂質異常症や骨粗鬆症の高危険群となるため,適切な管理が必要である.慶應義塾大学病院産婦人科では女性のトータルヘルスケアを目的とした女性健康維持外来を開設して女性の卵巣機能低下にともなう諸症状を多角的に検証している.さらに遺伝性腫瘍の遺伝子変異保持例は常に異時性発症癌や重複癌発症の不安と共存していかなくてはならず,卵巣機能低下に対する対策と並行して,心理的不安の解消を含めたQOL 低下防止策が必要である.卵巣癌BRCA1/2 遺伝子変異保持例に対してPARP 阻害薬であるOlaparib 投与が考慮されており,治験が進められている.
ISSN:1346-1052
2189-6674
DOI:10.18976/jsft.11.2_48