黒毛和種繁殖牛に認められた歯原性腫瘍の1例
症例は24カ月齢の黒毛和種繁殖牛で下顎歯肉の腫脹を主訴に往診した.第1病日,右第一切歯部歯肉の腫脹および吻側下顎全体の腫脹が見られ,抗菌薬および消炎剤を3日間投与し経過観察とした.第24病日に左第一切歯部歯肉は潰瘍化し,第32病日に左第一切歯が自然に脱落した.その後左第一切歯部歯肉が腫瘤化したため第52病日にX線検査,血液検査を実施した.X線画像診断の頭部側方像において,吻側下顎骨内に不透過像と埋伏歯が認められた.血液検査では,白血球数の増加および末梢血リンパ球数の割合の増加,異型リンパ球が認められた.第87病日に腫瘤はソフトボール大まで増大し採食不能となり,さらに牛伝染性リンパ腫ウイルスの感...
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Published in | 産業動物臨床医学雑誌 Vol. 14; no. 1; pp. 17 - 22 |
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Main Authors | , , |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
日本家畜臨床学会 ・ 大動物臨床研究会・九州沖縄産業動物臨床研究会
2023
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Subjects | |
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ISSN | 1884-684X 2187-2805 |
DOI | 10.4190/jjlac.14.17 |
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Summary: | 症例は24カ月齢の黒毛和種繁殖牛で下顎歯肉の腫脹を主訴に往診した.第1病日,右第一切歯部歯肉の腫脹および吻側下顎全体の腫脹が見られ,抗菌薬および消炎剤を3日間投与し経過観察とした.第24病日に左第一切歯部歯肉は潰瘍化し,第32病日に左第一切歯が自然に脱落した.その後左第一切歯部歯肉が腫瘤化したため第52病日にX線検査,血液検査を実施した.X線画像診断の頭部側方像において,吻側下顎骨内に不透過像と埋伏歯が認められた.血液検査では,白血球数の増加および末梢血リンパ球数の割合の増加,異型リンパ球が認められた.第87病日に腫瘤はソフトボール大まで増大し採食不能となり,さらに牛伝染性リンパ腫ウイルスの感染も認めたことから摘出術は適用外と判断し,と畜場へ搬入した.病理解剖では左第一切歯部腫瘤の表面は潰瘍化し,基部には歯様硬組織がみられ,左下顎骨周囲組織は壊死し,左下顎骨は融解していた.組織学的検査において左右第一切歯部腫瘤の基部は良性歯原性腫瘍である複雑歯牙腫およびエナメル上皮線維歯牙腫と診断され,腫瘤の大部分は細菌感染による炎症性細胞や肉芽組織であった.本症例における下顎切歯部腫瘤の急激な増大および下顎骨周囲組織の壊死や骨融解は,成長が緩慢な歯原性腫瘍だけでなく細菌感染や肉芽組織の増生によるものと考えられた.また,X線検査にて下顎骨内の歯様硬組織や腫瘍のために埋伏歯となった左第一永久切歯を不透過像として確認できたことから,X線検査が牛における歯原性腫瘍の診断の一助になると考えられた.牛の口腔内腫瘍は治療法として摘出術が選択され,早期であれば下顎骨切除をすることなく良好な予後が期待される.歯肉部や顎骨の腫脹を認めた場合は歯原性腫瘍の可能性も考慮し,X線検査にて歯様硬組織および埋伏歯の有無を精査するべきであると考えられた. |
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ISSN: | 1884-684X 2187-2805 |
DOI: | 10.4190/jjlac.14.17 |