脳卒中後の内因性神経再生の再評価

成体脳においても神経再生が生じ得ることがヒトも含めた哺乳類で示され, 特に内在性神経幹細胞からの再生療法が脳卒中の分野でも期待されている. このような神経再生の評価は, 歴史的には分裂期細胞にDNAに取り込まれるBrdU(Bromodeoxyuridine)の開発に負うところが多く, BrdUを取り込んだ神経細胞の存在が内因性神経再生のgold standardになっている. しかし, BrdU標識を用いた再生の評価にもいくつかの問題点が存在する. その第一は, BrdUはDNA修復がなされた細胞でも取り込まれ得ることである. 特に脳虚血後には様々なDNA損傷が生じ, アポトーシスにて細胞死に...

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Published in脳卒中 Vol. 29; no. 6; p. 831
Main Author 川原, 信隆
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 一般社団法人 日本脳卒中学会 2007
日本脳卒中学会
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ISSN0912-0726
1883-1923
DOI10.3995/jstroke.29.831

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Summary:成体脳においても神経再生が生じ得ることがヒトも含めた哺乳類で示され, 特に内在性神経幹細胞からの再生療法が脳卒中の分野でも期待されている. このような神経再生の評価は, 歴史的には分裂期細胞にDNAに取り込まれるBrdU(Bromodeoxyuridine)の開発に負うところが多く, BrdUを取り込んだ神経細胞の存在が内因性神経再生のgold standardになっている. しかし, BrdU標識を用いた再生の評価にもいくつかの問題点が存在する. その第一は, BrdUはDNA修復がなされた細胞でも取り込まれ得ることである. 特に脳虚血後には様々なDNA損傷が生じ, アポトーシスにて細胞死に陥る神経細胞でも標識されることが示されており, 神経再生の過大評価に繋がる恐れがあり組織評価の際には注意が必要である. また, 逆にBrdUでは神経再生を過小評価する可能性もある. BrdUは投与量が多くなると毒性が強くなるため, 投与量に限界がある. 一般的には, 1回のBrdUの全身投与ではBBBの存在もあり中枢神経系での有効濃度は数時間と言われており, すべての分裂細胞を標識することは困難である. 我々の齧歯類の線条体再生モデルを用いた研究でも, 実際の再生の程度と比較すると, その効率はきわめて低いことが分かってきた. 逆に考えれば, 実際の神経再生の程度は, BrdUを用いた過去の研究で示されているよりも遙かに高いレベルで生じている可能性もある. このように, 内在性神経幹細胞からの神経再生の評価は, 現象論から量の評価の段階に入りつつあり, 今後も様々な視点からの総合的評価が必要である. これらの検証を経ることで, 臨床的にも有効な治療法が開発されることが期待される.
ISSN:0912-0726
1883-1923
DOI:10.3995/jstroke.29.831