声帯瘢痕に対する粘弾性回復を目指した基礎研究 -現状,問題点と今後の展望

声帯の粘弾性が阻害された声帯瘢痕は(1)物理的障害(2)炎症によるものの二つに大きく分けられる. (1)は声帯ポリープ, 癌などの膜様部病変切除後や音声酷使(2)は上気道炎や放射線照射後の声帯炎によるものである. 映画サウンドオブミュージックの主演女優ジュリーアンドリュースは2001年にNYで声帯ポリープの手術を受けその後の声帯瘢痕により高いピッチが発声できなくなり歌手生命を絶たれたことは有名である. 一方本邦の放射線照射を必要とする頭頸部癌患者は年間約2万人と推定されそのうち声帯が照射野に含まれる癌腫は約6割にのぼる. 患者が治療後数年して声帯瘢痕に苦しむ場合も多々ある. このように潜在的に...

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Published in喉頭 Vol. 30; no. 2; p. 40
Main Author 熊井, 良彦
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本喉頭科学会 01.12.2018
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ISSN0915-6127
2185-4696
DOI10.5426/larynx.30.40

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Summary:声帯の粘弾性が阻害された声帯瘢痕は(1)物理的障害(2)炎症によるものの二つに大きく分けられる. (1)は声帯ポリープ, 癌などの膜様部病変切除後や音声酷使(2)は上気道炎や放射線照射後の声帯炎によるものである. 映画サウンドオブミュージックの主演女優ジュリーアンドリュースは2001年にNYで声帯ポリープの手術を受けその後の声帯瘢痕により高いピッチが発声できなくなり歌手生命を絶たれたことは有名である. 一方本邦の放射線照射を必要とする頭頸部癌患者は年間約2万人と推定されそのうち声帯が照射野に含まれる癌腫は約6割にのぼる. 患者が治療後数年して声帯瘢痕に苦しむ場合も多々ある. このように潜在的に多くの患者のQOLを著しく低下させる声帯瘢痕に対する治療開発を目指した基礎研究は現在世界的に盛んに行われているが, 決定的な治療法の確立に至らないのはなぜか? 理由は大きく三つあると考えている. 1)声帯瘢痕の形成過程(特に急性期)を予防する成長因子, 幹細胞, 自家組織などが盛んに研究されているが標的とする硬く高速に振動する瘢痕組織内に長期にわたってこれらの治療物質をとどまらせることは極めて難しい. 2)声帯瘢痕の組織学的特徴は主に上記の二つの原因により正常線維芽細胞が最終分化形態である筋線維芽細胞に分化することでもたらされる細胞外マトリックスの構成変化であり, この過程を予防することはできても脱分化(もとに戻すこと)することが難しい. 3)当然ながら当該領域も基礎研究成果を臨床応用するにあたってのハードルが高い. 本シンポジウムでは, 演者が2007年より取り組んでいる声帯瘢痕に対する粘弾性回復を目指した基礎研究結果を提示し, 以上3点の問題点を中心に反省も含め会場の諸先生方とともに今後の治療開発の糸口を探りたい.
ISSN:0915-6127
2185-4696
DOI:10.5426/larynx.30.40