オンラインビデオ通話での運動介入により自閉症スペクトラム症児の前転運動の目標が達成された事例

【はじめに、目的】自閉スペクトラム症 (以下ASD)はコミュニケーションの困難やこだわり、常同行動が行動の特性として見られる神経発達症の1つである。ASDには運動の障害である発達性協調運動障害が頻繁に併存し、粗大、微細運動、姿勢制御の問題があると言われている。運動の障害は日常生活や学校での活動への参加に支障をきたすことが示唆され、支援の必要性があると考えられる。また、昨今では新型コロナウイルス感染症の影響もあり、オンライン等での遠隔の支援ニーズを聞く機会が増えている。今回、オンラインビデオ通話での運動への介入により、本児が目標にした「前転運動」の目標を達成する事例が得られたので報告する。 【方...

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Published inThe Japanese Journal of Pediatric Physical Therapy Vol. 2; no. Supplement_1; p. 112
Main Authors 宇田, 紗彩, 後藤, 颯人, 橋本, 咲子, 堂面, 勝哉, 楠本, 泰士
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 一般社団法人 日本小児理学療法学会 31.03.2024
Japanese Society of Pediatric Physical Therapy
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ISSN2758-6456
DOI10.60187/jjppt.2.Supplement_1_112

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Summary:【はじめに、目的】自閉スペクトラム症 (以下ASD)はコミュニケーションの困難やこだわり、常同行動が行動の特性として見られる神経発達症の1つである。ASDには運動の障害である発達性協調運動障害が頻繁に併存し、粗大、微細運動、姿勢制御の問題があると言われている。運動の障害は日常生活や学校での活動への参加に支障をきたすことが示唆され、支援の必要性があると考えられる。また、昨今では新型コロナウイルス感染症の影響もあり、オンライン等での遠隔の支援ニーズを聞く機会が増えている。今回、オンラインビデオ通話での運動への介入により、本児が目標にした「前転運動」の目標を達成する事例が得られたので報告する。 【方法】対象はASD、軽度知的障害の診断がある10歳女児。親御様の主訴としては運動の不器用さや参加の難しさ、疲れやすさなどが挙がった。初回面談日 (X日)より8か月の間、月2回オンラインでの理学療法士が担当するレッスンに参加した。介入は母親とカナダ作業遂行測定 (以下COPM)を用いて設定した目標に沿って、オンラインかつ自宅内で取り組めるメニューの実施、ホームプログラムの提案を行った。 【結果】X日に行った面談時に母親と共に「前転できるようになる」を目標として設定した。遂行度、満足度はそれぞれ1、2であった。介入初日は前転をするための準備姿勢を取ることも難しく、回転の際には頭頂部が床に接地し回転することが難しかった。介入時は動画を用いてメニューを提示し、重点的に行たいものはスロー再生や動画を細切れにした。その結果、X+4か月の介入後に行った面談では遂行度、満足度はそれぞれ7、8に向上した。しかし回転後の起き上がりが難しく、目標を継続し、回転を早くすることを意識した練習や上体起こしなど体幹の筋力トレーニングで継続的に介入を実施し、X+7か月に行った面談では遂行度、満足度はそれぞれ9、9に向上した。 【考察】本症例ではオンラインビデオ通話での理学療法士の介 入により、前転運動のCOPMの向上が見られた。本症例は動作のイメージをすることの困難さから、メニュー動画の提示の工夫で、動作のイメージができ、COPMの向上に繋がったと考えられる。X+4か月以降は体幹の筋力トレーニングなどの介入を加え、起き上がりの際にタイミングよく体幹を収縮することができるようになった。また、毎回のレッスン前に週に複数回自宅練習をする様子があり、試行回数も確保することもできた。 ASD児は、集団での指示行動の困難さがあり、オンライン環境は、個別でサポートでき、動画やスロー再生などその児にあった方法で提示することができる。また、自宅のため周囲を気にせず、運動に参加しやすくなることもある。本症例においても、理学療法士が本児にあった運動のメニュー提供と提示の工夫により目標の運動への参加機会が増え、運動学習が進んだと考えられる。オンラインビデオ通話を用いた運動面への介入事例は少ないが、オンラインならではの提示の工夫や環境設定により、参加機会の増加や成功体験を積む機会の提供ができることが示唆される。 【倫理的配慮】本報告は当社の規定に基づき、個人を特定できないよう配慮し、研究以外の目的で患者データを利用しないこととした。また、症例の家族に対して本報告の趣旨を伝え、ウェブ上のフォームにて同意を得た。
ISSN:2758-6456
DOI:10.60187/jjppt.2.Supplement_1_112