クロマチンアクセシビリティ解析による歯髄幹細胞分化における機能的転写因子/転写制御因子の探索

目的:局所クロマチンの「ゆるみ」によるクロマチンアクセシビリティの上昇は,転写複合体の結合を可能にすることで標的遺伝子発現を促すことから,エピジェネティクスな遺伝子発現調節機構の主体である.そこで本研究では,いまだ明らかになっていないヒト歯髄幹細胞(human dental pulp stem cells:hDPSC)の分化過程における全ゲノム的なクロマチンアクセシビリティの変化をATAC-seq(Assay for Transposase-Accessible Chromatin with high-throughput sequencing)により捉えることを目的とする. 材料および方法:...

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Published in日本歯科保存学雑誌 Vol. 66; no. 3; pp. 179 - 191
Main Authors 鈴木, 茂樹, 山田, 聡, 大道寺, 美乃, 長﨑, 果林, 根本, 英二, 長谷川, 龍, 佐藤, 瞭子
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 特定非営利活動法人 日本歯科保存学会 30.06.2023
日本歯科保存学会
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ISSN0387-2343
2188-0808
DOI10.11471/shikahozon.66.179

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Summary:目的:局所クロマチンの「ゆるみ」によるクロマチンアクセシビリティの上昇は,転写複合体の結合を可能にすることで標的遺伝子発現を促すことから,エピジェネティクスな遺伝子発現調節機構の主体である.そこで本研究では,いまだ明らかになっていないヒト歯髄幹細胞(human dental pulp stem cells:hDPSC)の分化過程における全ゲノム的なクロマチンアクセシビリティの変化をATAC-seq(Assay for Transposase-Accessible Chromatin with high-throughput sequencing)により捉えることを目的とする. 材料および方法:hDPSCを石灰化誘導培地で12日間培養し,培養前後にATAC-seq用サンプルの調製を行った.バイオインフォマティクス解析により,オープンクロマチンピーク抽出,サンプル間比較,コンセンサスDNA結合配列(CDB)の同定,各ピークの近傍遺伝子に対するGene Ontology(GO)解析を行った. 結果:培養0日目と12日目において有意なオープンクロマチンピークをそれぞれ45,493個と45,370個同定した.これらオープンクロマチンピークにはTEAD,RUNX,bZIPなどの転写因子群とCTCF,Borisというインシュレーター(局所クロマチンの区切り壁を形成する因子)のCDBが共通して集積していた.さらにCTCF-CDB近傍遺伝子のGO解析では,培養12日目においてのみ,TEADによって転写制御を受けるHippo signaling pathwayが上位にランクされた.CTCF-CDB近傍のHippo signaling pathwayに属する遺伝子はACTB,ACTG1,AREG,APC,DLG2,DVL1,BMP2,BMPR1B,NF2,PARD6B,SMAD2であり,BMP2やBMPR1Bなど硬組織形成分化に必須の遺伝子座が含まれていた.以上より,hDPSCの分化過程において,オープンクロマチン領域から検出されるCDBの種類に変化は少ないものの,CTCFによる局所クロマチンの3D構造変化が分化指向性遺伝子座の選択的オープンクロマチン化を引き起こすことで分化指向性遺伝子の発現が誘導されることが示唆された. 結論:hDPSCの分化には各クロマチン領域においてインシュレーターが担うエピジェネティクスな遺伝子発現制御機構が存在しており,その統合的制御によりhDPSCの効率的な分化誘導法が確立できる可能性が示された.
ISSN:0387-2343
2188-0808
DOI:10.11471/shikahozon.66.179