緩和ケアの現状 総合学としての緩和ケア学への挑戦

緩和ケアには, 身体的苦痛・精神的苦痛・社会的苦痛・スピリチュアルペイン (いわゆる全人的苦痛・トータルペイン) の軽減を目的としたケアに加えて, 病態・疾患の管理・治療効果の向上という役割もある. 現在では, 緩和ケアはターミナルケアと同義ではなくなってきており, 治療の早期から開始されるべき医療サービスと定義されている. また, 緩和ケアは, がんに特化せずあらゆる疾患に適応されるものとして, 海外ではすでに慢性進行性疾患, 認知症, 高齢者医療の現場にも導入されている. がん医療においては, 緩和ケアはがんの診断から死に至るまでの間, すなわち治療のどの段階においても提供されるべき医療サ...

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Published in順天堂医学 Vol. 57; no. 6; pp. 570 - 581
Main Author 奥野, 滋子
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 順天堂医学会 31.12.2011
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ISSN0022-6769
2188-2134
DOI10.14789/pjmj.57.570

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Summary:緩和ケアには, 身体的苦痛・精神的苦痛・社会的苦痛・スピリチュアルペイン (いわゆる全人的苦痛・トータルペイン) の軽減を目的としたケアに加えて, 病態・疾患の管理・治療効果の向上という役割もある. 現在では, 緩和ケアはターミナルケアと同義ではなくなってきており, 治療の早期から開始されるべき医療サービスと定義されている. また, 緩和ケアは, がんに特化せずあらゆる疾患に適応されるものとして, 海外ではすでに慢性進行性疾患, 認知症, 高齢者医療の現場にも導入されている. がん医療においては, 緩和ケアはがんの診断から死に至るまでの間, すなわち治療のどの段階においても提供されるべき医療サービスであるといえる.原因ががんであるか否かにかかわらず, 病気がもたらす最終的な姿は死である. 医療者もまた, 死を前提とした人間としての患者の人生の一部分を担っているという認識をもち, 患者, 家族とかかわる姿勢が大切である. したがって医療者は, 治療を行うにあたり, 患者の人生の意味の喪失, 自己コントロール感の喪失, 罪の意識, 孤独, 希望がないこと, 死についての恐怖を無視することはできないであろう.緩和ケアの教育には, 医学・看護学・薬学といった自然科学の知識に加えて, 人文社会学・宗教学・哲学・死生学・生命倫理学といった人間科学の知識を融合することが望ましく, 緩和ケア・医療の最前線から, 私たちは「総合学」としての「緩和ケア学」を啓発していかなければならないと考える.以上, 順天堂大学医学部附属順天堂医院緩和ケアセンターの活動状況報告とともに, 緩和ケアの現状と問題点について概説した.
ISSN:0022-6769
2188-2134
DOI:10.14789/pjmj.57.570