低温プラズマ照射によるマウスの抗腫瘍免疫誘導

物質の温度を上げると固体,液体,気体と状態が変化する.さらに温度を上げると,気体分子が電子と正イオンに電離し,異なる性質をもつ電離気体となる.この電離気体をプラズマとよぶ.このプラズマを用いたがん治療の研究が,20年ほど前から行われている.高電圧放電で生成するプラズマ中には,電界や電流の他に,電界加速された電子が気体分子に衝突して生成される活性酸素種や活性窒素種が豊富に存在し,これらががん細胞に作用する.また,プラズマ照射で抗腫瘍免疫が誘導される可能性も,in vitroおよびin vivo実験で示されている.本稿では,プラズマによるがん治療の概略を解説し,筆者が行っている抗腫瘍免疫を示唆する...

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Published inThermal Medicine Vol. 41; no. 2; pp. 9 - 19
Main Author 小野 亮
Format Journal Article
LanguageEnglish
Japanese
Published 日本ハイパーサーミア学会 15.06.2025
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ISSN1882-2576
1882-3750
DOI10.3191/thermalmed.41.9

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Summary:物質の温度を上げると固体,液体,気体と状態が変化する.さらに温度を上げると,気体分子が電子と正イオンに電離し,異なる性質をもつ電離気体となる.この電離気体をプラズマとよぶ.このプラズマを用いたがん治療の研究が,20年ほど前から行われている.高電圧放電で生成するプラズマ中には,電界や電流の他に,電界加速された電子が気体分子に衝突して生成される活性酸素種や活性窒素種が豊富に存在し,これらががん細胞に作用する.また,プラズマ照射で抗腫瘍免疫が誘導される可能性も,in vitroおよびin vivo実験で示されている.本稿では,プラズマによるがん治療の概略を解説し,筆者が行っている抗腫瘍免疫を示唆するいくつかのマウスモデル実験,すなわち(i)腫瘍照射による遠達効果,(ii)再チャレンジ実験による長期全身性抗腫瘍効果,(iii)正常組織照射による遠達効果,(iv)免疫チェックポイント阻害剤との併用効果,(v)局所再発抑制効果を紹介する. (i)の遠達効果は,マウスの2つの腫瘍の片方にプラズマ照射すると,もう片方の腫瘍にも抗腫瘍効果が得られる現象である.この遠達効果がマウスの抗腫瘍免疫で得られたものと考え,プラズマで誘起した全身性の抗腫瘍効果が,マウス体内に長期間保持されることを確認したのが(ii)の再チャレンジ実験である.また,この遠達効果が,プラズマを腫瘍ではなくマウスの正常組織に照射しても得られることを示したのが(iii)の実験である.(iv)は抗PD-1抗体とプラズマ照射を併用し,相乗効果が得られる可能性を示した実験である.(v)は腫瘍切除後にプラズマ照射することで,その後の局所再発率を半減できる可能性を示した実験である.
ISSN:1882-2576
1882-3750
DOI:10.3191/thermalmed.41.9