超高齢社会における認知症診療の問題点と将来展望

社会の高齢化に伴い、本邦における認知症の人の数は、現在の約500万人から2030年には約700万人に増加すると推定されている。しかし世界の状況はもっと深刻で、先進国で認知症が約2倍になると見込まれる2050年に、社会・経済基盤が脆弱な発展途上国では3倍以上に増加すると推定されている。その結果、現在、1年間に世界で8,180億ドルと推計されている、認知症による経済負担は、2018年に1兆ドル、2030年に2兆ドルを超すと予想されている。これまでの疫学研究の成果をもとに、運動、食事、知的活動、心血管リスクの管理などの予防介入が試みられているが、血管性認知症は別として、神経変性疾患による認知症への効...

Full description

Saved in:
Bibliographic Details
Published in総合健診 Vol. 44; no. 2; pp. 360 - 369
Main Author 秋山, 治彦
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 一般社団法人 日本総合健診医学会 2017
日本総合健診医学会
Subjects
Online AccessGet full text
ISSN1347-0086
1884-4103
DOI10.7143/jhep.44.360

Cover

More Information
Summary:社会の高齢化に伴い、本邦における認知症の人の数は、現在の約500万人から2030年には約700万人に増加すると推定されている。しかし世界の状況はもっと深刻で、先進国で認知症が約2倍になると見込まれる2050年に、社会・経済基盤が脆弱な発展途上国では3倍以上に増加すると推定されている。その結果、現在、1年間に世界で8,180億ドルと推計されている、認知症による経済負担は、2018年に1兆ドル、2030年に2兆ドルを超すと予想されている。これまでの疫学研究の成果をもとに、運動、食事、知的活動、心血管リスクの管理などの予防介入が試みられているが、血管性認知症は別として、神経変性疾患による認知症への効果は大きなものではない。認知症の原因の過半数を占めるAlzheimer病(AD)の根本治療薬(病態修飾薬)開発は人類にとって待ったの課題なのである。ADの脳病変においてアミロイドβ蛋白(Aβ)とタウ蛋白の異常蓄積は病因に深く関わっており、特にAβ蓄積はAD特異的な変化である。現在、これらAD特異病変を反映するバイオマーカーの開発が進んでいるが、これは言い換えれば、今、行われている診断が臨床症状や脳の萎縮・代謝低下の分布などの間接的な所見の積み上げにもとづくものであって、複数の認知症疾患合併の可能性も含めて、常に慎重な判断が求められることを意味する。また、AD特異的バイオマーカーの研究は、ADが20~30年におよぶ無症候~軽度認知障害の期間を経て、脳病変が既にかなり高度になった段階で漸く認知症に至ることを明らかにした。その結果、病態修飾薬の開発、治験では“認知症発症前の治療”が焦点になってきた。発症前治験の実施は、治験期間の長期化やコストの増大などを招き、このような困難の克服をめざして産官学の密接な連携や国際連携が求められている。
ISSN:1347-0086
1884-4103
DOI:10.7143/jhep.44.360