二十日鼠癌「エキス」靜脈内注射ノ各種癌患者血液性状ニ及ボス影響

• Published in: Shokakibyogaku Vol. 9; no. 2; pp. 211 - 275
• Main Author: 渡邊, 周一
• Format: Journal Article
• Language: Japanese
• Published: 財団法人 日本消化器病学会 1944; The Japanese Society of Gastroenterology
• ISSN: 2185-1158
• DOI: 10.11405/nisshoshi1936.9.211

現今悪性腫瘍及ビ各種臓器ニ有毒物質ノ存在スル事ハ周知ノ事實ニシテ, 曩ニ恩師岡田教授ハ特殊ノ製法ヲ以テ二十日鼠癌「エキス」ヲ創製セラレ, 各種癌患者ノ治療ニ應用セラレシガ, 該癌「エキス」ニヨリ治療ヲ繼續スルニ當リ癌「エキス」ノ静脈内注射ガ癌患者ノ血液性状ニ如何ナル影響ヲ及ボスヤヲ究明スル事ハ極メテ重要ナルハ言ヲ俟タズ.今囘余ハ岡田内科入院ノ診斷確實ナル癌患者ノミヲ選ビテ血色素量・赤血球數・白血球數・血壓・赤血球沈降速度・血中残餘窒素・血清蛋白・網状赤血球數等ニ就キ癌「エキス」静脈内注射ノ時間的影響ヲ觀察セリ. (1) 全例ヲ通ジテ認メラル、顯著ナル血液性状ノ變化ハ癌「エキス」注射後白血球増加ヲ招來スル事ニシテ, 之ハ所謂中性嗜好性白血球ノ増加, 就中桿状核白血球ノ増加即チ核形左方移動ニ基因スルモノナリ. 此ノ白血球増加ハ注射後2-3時間ニシテ最高ニ達シ, 其ノ後漸次滅少シテ5-24時間後注射前ノ値ニ復歸スルモノ. 如シ. 淋巴球ハ注射後減少スル傾向ヲ有スルモノノ如ク, 「エオジン」嗜好細胞及ビ大單核細胞ハ注射後輕度ナルモ増加ヲ認ム.猶全例ヲ通ジテ退行變性及ビ病的白血球ノ出現ヲ見ザリキ. (2) 注射量4cc以下ノ場合ニ於テハ注射後白血球増加ヲ來ス外血液性状ニ著變テ認メズ. (3) 注射量5ccノ場合ニ於テハ注射後血色素量及ビ赤血球數ノ減少ヲ來スモ, 何レモソノ減少率ハ輕度ニシテ最大減少率5%以下ナリ. 減少率ハ注射後1-2時間ニテ最大トナリ, ソノ後漸次恢復ノ傾向ヲ辿リ, 4-5時間ニテ略ゝ注射前ノ値ニ復歸スルモノ. 如ク, ソノ恢復モ亦速カナリ. 綱状赤血球數ニ就イテハ注射後赤血球數ノ減少ト逆ニ漸次増加ノ傾向ヲ辿リ, 注射後2-3時間ニテ最大値ニ達シ其ノ後漸次減少ノ傾向ヲ有スルモ, ソノ増加ハ24時間後ニ於テモ猶残存スル場合多カリキ. 血壓ニ就イテハ注射後漸次下降スルモ, ソノ下降ハ6mm Hgヲ超ユル事ナク恢復モ亦速カナリ. 赤血球沈降速度ニ就イテハ注射後輕度ノ促進ヲ認ムルモ3mm以上ノ促進ハ1例モ認メズ. 大體注射後2時間ニテ最高ノ促進ヲ示シ, 4-5時間後ニ於テ略ゝ注射前ノ値ニ復歸ス. 血中残餘窒素ニ就イテハ注射後稍ゝ増加ノ傾向ヲ有スルモノ. 如ク, 注射後2時間ニシテ最高ノ増加ヲ示シ, ソノ後漸次減少シテ5-6時間後ニ於テ注射前ノ値ニ復歸ス. ソノ増加ハ何レモ3mg%以下ヲ示セリ. 血清蛋白ニ就イテハ注射後輕度ナルモ減少ノ傾向ヲ辿リ, 2時間後ニ於テ減少率最大トナリ, ソノ後漸次恢復シテ注射後5-6時間ニテ略射前ノ値ニ復歸ス. (4) 注射量6ccノ場合ニ於テハ血色素量及ビ赤血球ニ及ボス影響ハ稍ゝ著明ニシテ注射後30分ニシテ減少ノ傾向ヲ示シ, 2-3時間ニテ最大ノ減少率ヲ示シ, ソノ後漸次恢復シテ6-24時間ニテ略ゝ注射前ノ値ニ復ス. 其ノ最大減少率ハ血色素量ニ於テ7.6%, 赤血球ニ於テ8.7%テ示セリ. 血壓ニ就イテハ注射後ソノ下降度ハ稍ゝ著明ナルモ大體10mm Hgヲ超ユル事ナク2時問後ソノ下降ハ最高ニ達シ, ソノ後漸次恢復シテ5時間後ニ於テ略ゝ注射前ノ値ニ復蹄ス. 綱状赤血球ニ就イテハソノ變動ハ注射量5ccノ場合ト大差チ認メズソノ増加ハ24時間後ニ於テモ猶残存スルモノ. 如シ. 赤血球沈降速度ニ就イテハソノ變動ハ注射後稍ゝ著明ナル促進ヲ認メ2-3時間後ニ於テソノ促進最高トナリ, 6-24時間後ニ於テ注射前ノ値ニ復歸スルモノ. 如シ. ソノ促進ハ最大値9.75mmニシテ10mmテ超エルモノナシ. 血中残餘窒素ニ就イテハ注射後稍ゝ著明ナル増加ヲ認メ2-3時間後ニ於テ最高トナリ其ノ後漸次減少シテ5-24時間後ニ於テ注射前ノ値ニ復歸スルモノ. 如シ. ソノ増加ハ最大値6.54mg%ナリキ. 血清蛋白ニ就イテハソノ變動ハ注射量5ccノ場合ト同様ニシテ注射後輕度ノ減少ヲ認ム. (5) 癌「エキス」ノ一定量ヲ連續注射スレバ, ソノ注射囘數ノ進ムニ從ツテソノ血液性状ニ及ボス變動ハ漸次減弱乃至ハ消失スルモノ. 如シ.